祖国から追い出されたはずが、過保護な皇帝陛下と海の国で幸せな第二の人生を送っています─嫌われ薬師の恋と調薬─
今まで私は、これ以上、悪い状況にならないだろうという驕りがあったのかもしれない。
両親が死に、兄と妹に嫌われ、毒殺の噂が広がった。しかし、最悪の底にはまだ至っていなかったようだ。
「王宮庭園のはずれの小屋で、毒の研究をしていたというのは本当か」
王宮の地下牢に幽閉された私に、アミオロが問う。
「はい」
「ヴェルノラとして内々に国へ貢献していたロゼに嫉妬し、殺そうとしたんだな」
「はい」
私は頷く。不幸中の幸いと言うべきか、騎士団に協力していたヴェルノラは自分だと、ロゼが証言したのだ。そのため、ヴェルノラの薬は毒殺の汚名から守られる形となった。
私とロゼ以外が知る、残酷な毒婦が幽閉される流れはこうだ。
妹が城のはずれの小屋で調薬をしていると知った姉は、妹の調薬中、毒霧を発生させて殺すことを思いつく。だが、計画は失敗し妹は命からがら小屋を出て、助けを求めた。幸い騎士たちが駆けつけ、妹を保護。姉を拘束し、姉妹の兄である国王は、毒婦に幽閉を言い渡す。
ロゼがヴェルノラを名乗った理由は、おそらくだが剥奪が目的だったのだろう。
今思うと幻のようだが、彼女は小さい頃、私に憧れてくれていた。お姉様みたいになりたい。お姉様と同じドレスが欲しい。お揃いにしたい──可愛らしい模倣は、彼女との仲が歪(いびつ)になっていくにつれ剥奪に変わった。
私には民からの信頼も、王族としての立ち位置もない。ドレスも最低限のものしかなくなった。最近は剥奪するものすらない状況だった。けれど、私には「ヴェルノラの薬」があり、なおかつ「妹を殺したがる理由付け」として、ヴェルノラが機能したのだ。
実際、「どうして突然妹を毒殺しようとしたのか」という問いに対し、「妹がヴェルノラと知り、その才能に嫉妬した」という解答に否を唱える者はいなかった。
しかし、全てがロゼの思い通りになったわけではない。
「元々は、騎士を脅して毒を盛らせるつもりだったそうだな。言うことを聞かなければ、この毒をお前の両親に飲ませるなんて言って」
「はい」
「相手は、自国の騎士団の副団長だぞ。王族を守るという騎士の矜(きょう)持(じ)を踏みにじらせるということが、どういうことかわかっているのか……」
「はい。でも彼女は、最後まで私の言うことを聞いてはくれなかった。残念なことです」
ヒヨス様は薬の研究に協力してくれた。そんな彼女を、巻き込みたくない。幸い彼女は私の証言を否定することはなかった。
「そこまで、憎かったのか。家族のことが」
アミオロが静かに問う。苛烈に私を詰(なじ)るかと思ったが、鉄格子から見る彼は穏やかだった。