僕のキャパシティイズオーバー
「そ、そもそも!なんでハグ!?なんで僕!?」


もう一度手を広げて近づこうとしていた奏多は、手をおろしてため息交じりに僕の問いに答えた。


「今度のドラマの撮影でそういうシーンがあるんだよ。女の抱きしめ方とかよくわかんねぇし…睦は背丈が相手役と近ぇし細ぇからちょうどいい。練習させてくれ」

そ……そういうことか……!

最初に大事な説明を省いちゃうあたりが奏多らしい。

「それならそうと先に言ってくれたらいいのに。でも僕じゃないほうがいいよ。奏多なら練習したがる女の子いくらでもいるんじゃないかな」

「は?その辺の女とハグしろってのかよ」

そう言って奏多がギロリと僕を睨む。

……そうだ。

この人は大の女嫌いなんだった。

「いや、でも、だからこそだよ!女の人で練習しないと意味がないよ!」

「…必要以上に女と接触したくねぇんだよ。めんどくせぇから。つかこのドラマの仕事持ってきたの、誰だよ?」


苛立ちを隠そうともしない奏多に見据えられた僕はグッと押し黙って、

「……」

そっと手を挙げた。

「だよな。お前だよな」

「はい」


ぐぅ……奏多に絶対合う役だと思ったから取ってきたけど、まさかこんなことになるとは……!


そして奏多は、悪びれない顔でまた手を広げる。


「ん」



< 11 / 70 >

この作品をシェア

pagetop