【一気読み改訂版】とし子の悲劇

【第104話】

2024年6月8日のことであった。

孤立無援状態のあきとさんは、JR札幌駅から歩いて5分のところにある生保会社の10階建てのビルの10階にある結婚相談の店に行った。

しかし、長時間待たされていたので気持ちがイライラしていた。

待っている間に見ていた説明ビデオを停止ボタンをクリックして止めた後、勝手に店から出ていった。

あきとさんは、数ヶ月ほど前から自分ひとりの力だけで結婚相手を探そうと思って、札幌市内の結婚相談の店を探し回ったが途中でギブアップした。

アタシは、あきとさんに対してダンナが疲れていない時に話し合いをしたらと口先ばかりで言うた。

アタシは、知らないうちに無関心になっていることが全く分からないナマケモノになった。

ダンナもまた、日増しに無関心になっていた…

あきとさんのいらだちは、さらに激しく高まった。

アタシはダンナに対して『いつになったらあきとさんの結婚のことを真剣に話し合うのよ…ふたりきりの甘い暮らしがしたいからなんとかしてよ!!』と言うてせかした。

ダンナは『オレはしんどいのだよ…疲れていないときにしてくれ…』と言うて逃げようとした。

思い切りブチ切れたアタシは、ダンナに物を投げつけてイカクした。

この時、アタシはダンナと離婚することを考え始めた。

2024年6月10日の正午頃であった。

ところ変わって、あいつ(ダンナをうざいと思うようになったのであいつに変更します…)が勤務している札幌市東区北7条にある総合商社にて…

従業員さんたちは、お弁当を食べたり、外へ食べに行ったりした。

ダンナは、お給料引きで注文したお弁当をひとりで食べていた。

この時、課長さんがダンナの元にやって来た。

課長さんは、あいつに対して『一緒にごはんを食べませんか?』とやさしい声で言うたあと、となりの席に座った。

あいつは、硬《かた》い表情を浮かべていた。

課長さんは、もうしわけない声であいつに言うた。

「総務のオオバヤシくんの結婚披露宴、あきひろさんに無理をお願いをした上にスピーチまで引き受けてくださって本当にありがとう…予算を大きくオーバーした分のお礼は、もう少しだけ待ってくれるかな?」
「もう少しって、どのくらい待てと言うのですか?」
「まあ、あと2ヶ月くらい…かなぁ…オオバヤシくんのお父さん(79歳)が起こした交通事故の被害者遺族に支払う賠償金がまだ満額になっていないから、オオバヤシくんが困っているのだよ…」
「もういいでしょ…待てばいいのだろ待てば(ブツブツ)…」
「どうしたのだね?えらい深刻な顔をしていたけど…」

課長さんは、ひと間隔空けてからあいつに言うた。

「ああそうだ…あきとさんは確かオオバヤシくんと同い年だったね。」
「そうですが…それがどうかしたのですか?」
「あきとさんは、いつになったらお嫁さんをもらうのかなぁ…」
「(あつかましい声で)またその話…うんざりだ!!」
「わたしは、あきひろさんのことが心配だから聞いただけだよ!!あきとさんは男前で優しいのに…なんで好きなコがいないのかな…と聞いただけなのに…」
「あきとは下請け会社の小さな工場で、安いお給料で働いているから結婚できないのです!!」
「どうしてあきひろさんは、決めつけで物を言うのかな〜」
「決めつけで言うてるわけではありません!!少ないお給料では、十分にお嫁さんを養うことはできません!!」
「それだったら、夫婦共稼ぎをすればいいだけのことじゃないか…」
「それって…嫁さんに働けと言うのか(ブチッ)」
「他にどんな方法があると言うのだね!?オオバヤシくんはお給料が少ないから、お嫁さんも働いておカネを稼ぐのだよ…」
「オオバヤシくんのお嫁さんがかわいそうだよ…オオバヤシくんは鬼だよ(ボソッ)」

あいつが言うた言葉に対して、課長さんはムッとした表情で言うた。

「なんだと…夫婦共稼ぎをすると言うことは嫁さんがかわいそうとはどういうことだ!?」
「お嫁さんには専業主婦として家庭にいることが本分ですよ!!家にいてほしい…専業主婦として床の間にかざってもらう方が幸せだよ…オオバヤシのクソバカは嫁さんを性フーゾクで働かせて不足分をおぎなうことしか頭にないけしからん奴だよ(ブツブツ)」
「あきひろさん!!あんた、鏡に顔を写して顔をよく見てみろ!!あんたの顔は、あきとさんの結婚に無関心である顔だよ!!そのせいで、あきとさんの結婚適齢期が薄れたのだよ!!」
「ウルセー!!クソ野郎!!」
「なんだと!!」
「クソ野郎をクソ野郎と言うてなにが悪いのだ!!虫ケラ!!おい、オオバヤシのクソナマイキなガキに言うとけ!!人のカネをドロボーしたから幸せな暮らしをぶち壊すぞと伝えておけ!!ムシケラ!!ミミズ!!イシゴカイ!!ゲジゲジ!!」

あいつは、課長さんをボロクソになじったあと口笛を吹きながら外へ出ていった。

ボロクソになじられた課長さんは、全身をブルブル震わせながら怒り狂った。

この日の夕方6時前であった。

ところ変わって、豊平区水車町1丁目の家にて…

あいつは、アタシに電話で『晩ごはんはいらない…』と言うたので、アタシはあいつに怒った声で言い返した。

「あなた!!晩ごはんを作るアタシの身になってよ…アタシはあんたにまっすぐ家に帰って来てと何度もいよんよ!!…分かったわ…地下鉄《でんしゃ》が動いている内に帰って来てよ。」

受話器を置いたアタシは、大きくため息をついた。

その後、2階の部屋で休んでいるあきとさんに『ごはんができたわよ…』と何度も繰り返して呼んだ。

「あきとさーん…晩ごはんができているわよ…降りてきてよ!!」

4回目の呼びかけで、あきとさんが2階から降りてきた。

「ふざけんなよ!!オレはイライラするんだよ!!」
「そんな言い方しなくてもいいじゃないのよぉ…アタシはみそ汁が冷めるよと言うただけよ…もういいからイスに座ってごはん食べよ!!」

あきとさんがイスに座ったあと、アタシはごはんとみそしるをついだ。

テーブルの上には、焼き魚と青菜のごまあえときんぴらごぼうときゅうりのおつけものが並んでいた。

アタシは、ごはんをついだあとみそしるをつごうとしたが、みそしるをつぐ手を途中で止めた。

あきとさんは、なんでみそ汁をつがないのかとアタシに言うた。

「あれ?みそしるは?」
「つぐわよ…だけど、少しぬるくなったから…温め直すだけよ。」
「みそしるいらない…」
「みそしるを温めてあげるから…その間にゆっくりとかんで食べたらァ…」
「みそしるいらないと言うているだろ!!」
「どうしてそんなに怒るのよ!?」
「かあさんは、みそしるがない食卓はイヤだと言うた!!」
「そんなことは言うてないわよ…主食主菜副菜とおつゆがそろうように晩ごはんをつくったのに、どうして文句ばかり言うのよ!?」
「ふざけんなよ!!あんたは何でオヤジと再婚したのだ!?」
「だから、おとーさんとあきとさんと仲良く幸せに暮らしたいから再婚したのよ!!」
「あんたが言う仲良く幸せに暮らすと言うテイギが分からないんだよ!!」
「おかーさんは、幸せになれるようにと思って、調味料も新しいのに全部買いそろえたのよ…みそしるのイリコも高級品に変えたのよ…料理の勉強も一生懸命にしたのよ…」
「だから幸せに暮らすテイギが分からないんだよ!!」
「おかーさんは、おとーさんから頼まれてあきとさんにバランスの取れた食事を作ってほしいと頼まれたのよ!!」

(バーン!!)

あきとさんは、平手打ちでテーブルを思い切りたたいた後、アタシが作った料理をごみ袋に棄《す》てた。

「あきとさん!!せっかく作った晩ごはんをどうして棄てるのよ!!拾いなさい!!」

そしたらあきとさんは、にらんだ目付きでアタシをイカクした。

「あきとさん…やめて…アタシにどうしろと言いたいのよ?アタシがこの家にいるなと言いたいの!?」

あきとさんは、ものすごく怒った声で言うた。

「ああそうだよ!!オドレはヤクザの元愛人だからこの家にいる資格なんかねえんだよ!!」
「おかーさんはおとーさんと再婚するときにヤクザ関係の人とは付き合いませんとヤクソクしたのよ!!」
「口先だけのヤクソクなんか信用できん!!」

あきとさんは、アタシを怒鳴りつけたあと背中を向けて家から出ていった。

どうすることもできずに力がぬけたアタシは、その場に座り込んだ。

この時であった。

家の庭の茂みに隠れていたももけた腹巻き姿でヤキソバヘアで黒のサングラスをかけていた男がニヤニヤした表情でアタシを見つめていた。

茂みに隠れていた男は、言うまでもなく竹宮豊国《たけみやとよくに》であった。

竹宮《たけみや》は、ボウゼンとした表情を浮かべていたアタシを見つめながら『哀れよのぉ〜』とつぶやきながら『ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ…』と嗤《わら》っていた。

この時、9度目の結婚生活の破綻と家庭崩壊の両方が発生する危機にひんした。
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