【一気読み改訂版】とし子の悲劇

【第131話】

12度目の結婚生活が破綻したアタシは、ひどく痛む乳房《むね》の傷を抱えたまま信州松本へ逃げた。

アタシは、友人が暮らしているマンションに一時滞在した後、大名町通りにあるマンスリーマンションに移り住んだ。

アタシは、ここから人生の再出発を始め。

友人からの紹介で城西1丁目にあるガソリンスタンドでバイトを始めた。

それだけでは足りないので、あがたの森通りにあるファミマとかけもちでバイトをしてお金を稼ぐことにした。

他にも、松本市内のデリヘル店や地元のJリーグチームが主催のホームゲームの試合の日にスタジアムでサンドイッチ売りをするなどでおカネを稼ぐことにした。

アタシは、一定の金額が貯まったら名古屋へ移り住むと訣《き》めた。

名古屋栄《さかえ》にあるテナントビルを借りて、マダムズバーを始める予定である。

残り半分の人生は、ナイトクラブのママで生きて行こうと訣意《けつい》した。

だから、アタシはあいつを棄《す》ててひとりで生きる…

あいつがアタシにやり直したいと言うても、アタシはダンコ拒否するわよ!!

2028年8月3日のことであった。

ラジオで、浅間山の警戒レベルが入山禁止の一歩手前におちいったと言うニュースを聞いたアタシは、心に蓄積されていた50年分の怒りが急激に高まった。

アタシをシツヨウに犯したゆうきとゆうきをレイプ魔にしたあいつとあいつの親類縁者たちは、灼熱の溶岩を含んだ漆黒の火砕流を大量に流した後、鬼押し出し(江戸時代の浅間山の噴火の時にできた場所にある名所)で焼き殺してやる!!

アタシの怒りは、最高潮に達した。

同じ頃であった。

あいつから力で家から追い出されたゆうきは、長野原町《となりまち》にある社会福祉法人の施設の迎えの車に乗せられた。

ゆうきは将来自暴自棄におちいる可能性が出たので、福祉施設に入所してヘルパーさんのお世話を受けることになった。

施設の車が走り去った後、あいつはそばにいた女に『悪夢は終わったよ…』と言うた。

女は『終わったのね…』とほほえみをうかべた。

「もう一度やり直そうか…」
「ねえ…前のお嫁さんのことはいいの?」
「とし子…とし子とは別れた…今は…お前を愛してる…」
「そうね…アタシもとし子にきらわれたから…もういいの…ねえ…なおきさん…アタシだけを愛して…」
「もちろんだよ…」

あいつは、ベッドの上で女と抱き合ってイチャイチャした。

こともあろうに、あいつが好きだった女は敦賀で暮らしていたアタシの友人だった。

遠くに見える浅間山は、噴火口から恐ろしい黒煙をもくもくとあげていた。

そして同時に、地下のマグマの活動が少しずつ活発になった。

浅間山の火山活動と比例するように、アタシの怒りが高まった。

許さない…

絶対に許さない!!

敦賀で暮らしていた友人は…

アタシを裏切った…

だから…

溶岩流《ようがん》に墜《おと》して焼き殺してやる!!
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