【一気読み改訂版】とし子の悲劇

【第133話】

アタシを棄《す》てたあとアタシの知人の女と再婚したあいつは、自分が悪いことをしたと言う気持ちは全くなかった。

あいつは、この最近近所の人たちから猛反発を受けるようになった。

あいつの弟は、長野原町《となりまち》の福祉施設でヘルパーさんのお世話になって暮らしていた。

しかし、脱走騒ぎを繰り返していたので施設側はガマンの限度を大きく超えた。

8月9日のことであった。

アタシがバイトしているガソリンスタンドの店内のスピーカーから、NHKラジオの正午のニュースが流れていた。

最初のニュースは、浅間山の火山危険情報が伝えられた。

浅間山は、ここ数日の間に火山活動が活発になったので、警戒レベル4まで引き上げたと伝えられた。

もうそこまで危なくなっているのね…

アタシは、そんなことを思いながら車のフロントガラスを白いタオルでふいた。

その頃であった。

脱走騒ぎを起こしたあいつの弟が施設の職員さんと一緒に帰宅した。

その日の夜9時前であった。

3人は、ダイニングテーブルに座って今後のことを話し合った。

しかし、話しがこじれてしまったので大ゲンカになった。

「ゆうきさんお願い…施設に戻って…お兄さんはゆうきさんと仲良く暮らせないと言うてるのよ…」
「うるせー!!オレは許さないからな!!何が仲良く暮らせないだ!!ふざけるな!!」

弟が言うた言葉に対して、あいつは思い切りブチ切れた。

「それじゃあ!!どうして上田の工場へ行かなかった!?喜多原《きたはら》さんがセッティングしてくださった職場実習にどうして行かなかった!?」
「ふざけるなクソバカ!!職場実習で採用する会社がどこにあるのだ!!喜多原《きたはら》がいよる工場は暴力団《ヤクザ》が運営している会社なんだよ!!」
「ゆうき!!」
「あなたやめて!!ゆうきさん、お兄さんにあやまりなさい!!」
「あやまれだと!!ふざけるなよ!!ここはオレの家だ!!出て行け!!」
「出てゆけはゆうきの方だ!!」

(ガツーン!!ドカッ!!)

あいつは、弟の頭をガラスの灰皿で思い切り殴りつけた。

殴られた弟の頭から大量の血液が飛び散った。

殴られた弟は、倒れたあと即死した。

その後、あいつと女は亡くなった弟を浅間山の立ち入り禁止区域に置き去りしたあと、足早に逃げた。

あいつの弟は、置き去りにされた状態で人生を終えた。
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