【一気読み改訂版】とし子の悲劇

【第28話】

8月27日のことであった。

義弟《おとうと》は、ガマンの限度を大きく超えたようだ。

義弟《おとうと》ば、工場内でめちゃめちゃに暴れた末に工場をぶち壊した。

めちゃめちゃに暴れて工場を壊した義弟《おとうと》は、工場から飛び出したあと行方不明になった。

そしてまた、あいつも医療法人済生会《さいせいかい》あてに辞表を送りつけた後、行方不明になった。

そして、その日の午後のことであった。

アタシがバイトをしている中央通りのマクドに武方《たけかた》さんがやって来た。

武方《たけかた》さんは、アタシに対してあいつが行方不明になったことを告げた。

アタシは『もしあいつが立ち寄ることがあったら知らせるわ。』と言うたあと、武方《たけかた》さんにこう言うた。

「あのね武方《たけかた》さん…アタシ、来月いっぱいでバイトをやめて三原へ帰ることにしたわ…」
「三原に帰るのか?」
「うん…帰ったあとは両親のそばについてあげたいの…」
「としこさんが、そのようにしたければ…そうすればいい…」

武方《たけかた》さんは、アタシに冷めた声で言うた後、マクドから出た。

アタシは、この日を最後に武方《たけかた》さんと会わなくなった。

そして、8月28日の朝9時頃であった。

(ドンドンドン!!ドンドンドン!!)

円座町《えんざ》の家に、入江さんがものすごい血相でやって来た。

入江さんの応対は、義父母がした。

「あら入江さん、どうかなさいましたか?」

義母はキョトンとした表情で、入江さんに聞いた。

入江さんは、義父母に志度の工場で深刻な事件が発生したことを伝えた。

何日か前に、警察署に黒のトヨタポルテが盗難にあったと所有者から届け出があった。

そのトヨタポルテが、暴走しながら工場の構内に侵入した。

暴走車は、3人の工場の従業員さんをはねたあと守衛室に衝突した。

その後、車の中からナイフを持った男が飛び出した。

男は、刃渡りのするどいナイフを振りまわして暴れまわった。

この時、工場長さんが刺されて亡くなった。

また、出勤してきた従業員さんたちも男にナイフで次々と斬《き》られた。

工場は今、香川県警《けんけい》のパトカー20台とさぬき市の消防本部の車両5台がたくさんとまっていた。

現場上空には、岡山香川と関西の民放局と松山・大阪の2つのNHKの拠点放送局の取材ヘリと新聞社の取材ヘリがセンカイしていた。

事件現場は、緊迫した空気に包まれていた。

午前10時の時点で、工場長さんと少なくとも20人以上の従業員さんたちが亡くなった…とニュースで伝えられた。

しかし、時間の経過とともに死者の数がさらに増えた。

事件発生から5時間後であった。

香川県警《けんけい》の捜査1課の刑事たち50人は、犯行に使われたトヨタポルテを捜索していた。

この時、若手の刑事が車のシートからマゼンタの箱を見つけたと言うた。

箱の中には、危険ドラッグが入っていた。

容疑者の男は義弟《おとうと》であることが分かった。

義弟《おとうと》は危険ドラッグを使用したあと、犯行に至った…

義弟《おとうと》は、事件を起こしたあと逃走した…

工場から知らせを聞いた入江さんは、ひどく気落ちした。

「ああ!!情けない…せっかく24年かけて一人前の工夫に育てたのに…通り魔事件を起こして逃走した…もう失望した…」

義父は、ひどくうろたえた。

義母は、義父を激しくなじった。

「あなたが全部悪いのよ!!ひろかずの貯金をしほのわがままのために全部使われたのよ!!しほひとりのせいで、ひろかずが通り魔になった…ひろかずが通り魔になった原因は全部あんたにあるのよ!!」
「何だと!?たったひとりしかいない娘に何てことを言うのだ!?」
「あんたひとりのせいでしほが殺されたのよ!!何がたったひとりしかいない娘よ!!」

義父母は、激しい口調でののしりあった。

その時であった。

義母が、左胸を押さえながら倒れた。

「どうしたのだ…おい…どうしたのだ!!」

義母は、ドクターヘリで三木町にある大学病院に救急搬送されたが、病院に到着してから数分後に心不全で亡くなった。
< 28 / 135 >

この作品をシェア

pagetop