【一気読み改訂版】とし子の悲劇

【第31話】

あいつの家から逃げ出したアタシは、再び女ひとりで生きて行くと訣意《けつい》したあと、着替えとメイク道具をぎっしり詰めたボストンバックと赤茶色のバッグを持って愛媛県四国中央市へ逃げた。

アタシは、JR伊予三島駅の近くにあるマンスリーアパートに移り住んだ。

新居浜のデリヘル店に在籍していた時に仲良しだった女のコからの紹介で、四国中央市内《しない》に新規オープンしたデリヘル店に入店した。

出張範囲は、西は新居浜市の住友病院前(新居浜西バスターミナル)のバス停付近の地域まで…東は香川県三豊市までであった。

新しくオープンしたデリヘル店には、新居浜のデリヘル店に在籍していた時に仲良しだった女のコが数人いた。

数人の女のコたちは、アタシが移り住んだマンスリーアパートの近くで暮らしていたので、安心した。

デリヘル店は自宅待機もOKなので、アタシは自宅待機を選んだ。

待機している間、アタシは中ノ庄町《なかのしょうちょう》の国道11号線バイパスにあるサンクス(コンビニ・今はファミマ)でバイトをしてお金を稼ぐことにした。

デリヘル店には、サンクスでバイトをする時間をあらかじめ伝えたので、昼夜問わずに働くことができた。

アタシは、今度こそは女ひとりで生きて行くとを訣意《けつい》を硬《かた》めた。

アタシは、今もあいつの家に対する怒りを保持していた。

あいつは、6月1日の県議会《ぎかい》の本会議《ほんかいぎ》で犯したあやまちに向き合わずにいじけてばかりいた。

まあ、そのうちにあいつの家は重いツケを背負うことになるだろう…

あいつの家が壊れようが燃えようが、アタシは一切関知しないわよ!!

さて、その頃であった。

アタシに去られたあいつはどうしていたかと言うと、例の問題が発生して以降ひとりでいじけてばかりいた。

あいつは報道機関《マスコミ》の記者からの質問攻めに加えて、義父母や親類縁者たちからも口やかましく言われ続けていたので、ひどくイラついていた。

政府与党の政党の徳島県連の男性幹部数人は、あいつのために問題を早く収束《しゅうそく》させたいので謝罪するようにうながした。

けれど、あいつはかたくなに拒否した。

それが原因で、7月23日に最初の事件が家庭内で発生した。

あいつは、気持ちがギスギスしていたので気晴らしに打ちっぱなしのゴルフ場に行こうと思ったので、ゴルフバッグを取りに自分の部屋に入った。

そしたら、愛用していたブリヂストン・ツアーステージのゴルフバッグがクラブごとなくなった。

激怒したあいつは、ちづるの母子手帳を廃棄した上に、出産の費用に使うためにふたりで貯めた預金通帳を勝手に解約した。

その後、全額ノミ代に使った。

7月24日のことであった。

ちづるがあいつに母子手帳を廃棄したことを問い詰めたことが原因で、ひどい父娘《おやこ》ゲンカが発生した。

「お父さん!!アタシの出産に必要な母子手帳をどうして捨てたのよ!?」
「そう言うオドレも、父さんが大切にしていたゴルフバッグをどこへやった!?」
「知らないわよ!!お父さんこそアタシの出産に必要な母子手帳を廃棄しておいてヘーゼンとしていられるわね!!」
「だまれ!!」

(ガツーン!!ガツーン!!)

ちづるは、あいつにグーで思い切り顔を殴られた。

「フザケルな!!オドレは学校を勝手に休学しておいて!!デキ婚をしやがって!!」
「やめて!!お父さんやめて!!」

ちづるは、あいつからシツヨウにグーで顔を殴られたその上に、髪の毛をハサミでズタズタに切られた。

あいつからどぎつい暴力をふるわれたちづるは、ボロボロに傷ついた。

あいつがちづるに暴力をふるっていた現場を、政府与党の政党の徳島県連の男性幹部数人に見られた。

男性幹部のひとりは、あいつのじいやんにあいつが自分の娘に対してきつい暴力をふるっていたことをチクリ(言いつけ)った。

チクられたじいやんは、激しい衝撃を受けて倒れた。

そして、その日の夕方であった。

あいつがちづるにきつい暴力をふるった事件で、義父母はものすごく怒っていた。

義父母のとなりにいるじいやんは、しくしく泣きながら『鈴原の家はおしまいじゃ…腹を切ってやる…』と言うた。

ちづるは、顔や身体中がボロボロに傷ついた上にものを言うことができなかった。

義母は、あつかましい口調で義父に言うた。

「サイアクだわ…セクハラヤジととしこさんに対する暴力に加えて自分の娘にもきつい暴力をくわえた…もうお手上げよ!!あなた!!真佐浩《まさひろ》をなんとかしなさいよ!!」
「分かってるよ!!こんなことになるのであれば真佐浩《まさひろ》を議員さんにさせるのじゃなかった…」

義母は、あつかましい声であいつに言うた。

「真佐浩《まさひろ》!!おまえはいつまで逃げ続けるつもりなの!?」
「オレはヤジを飛ばしていない!!別の議員が言ったのだ!!」
「真佐浩《まさひろ》!!」
「やめて!!もうダメ!!真佐浩《まさひろ》がいい子になるようにと一生懸命になって育てたのに、ちっともいい子に育たなかった…こんなことになるのだったら早いうちに施設に入れておくべきだったわ!!」

義母が泣きながら言うたので、義父は『よしわかった!!』と言ってから、あいつに言い放った。

「真佐浩《まさひろ》!!謝罪が出来ないのなら!!辞職して議席を徳島県《けん》に返せ!!オドレみたいなセクハラ議員がいたら県内の他の地域から来た議員さんたちに迷惑がかかるぞ!!」
「上等だ!!辞職するよ!!議席を返せば問題は解決するのだな!!だったら辞職するよ!!」
「真佐浩《まさひろ》!!」
「お父さんやめて!!もう分かったわ…うちら…大失敗した…」

義母は、両手で顔を隠したあとぐすんぐすんと泣いた。

あいつは、7月31日をもって徳島県議会の議員の資格を剥奪された。

その後、あいつは7月31日の夜に家出した。

家出したあいつは、小松島市中郷町のJR中田《ちゅうでん》駅の近くのアパートで暮らしているスナックの従業員の女性の部屋に転がり込んだ。
< 31 / 135 >

この作品をシェア

pagetop