【一気読み改訂版】とし子の悲劇

【第45話】

アタシとあいつの夫婦関係を修復することは、もはや不可能となった。

アタシは、あいつと離婚したあとは三原の実家へ帰って静かに暮らそうかと思っていたが、また同じことの繰り返しになるから帰らないことにした。

アタシは、一定の金額が貯まったら岡山県か近畿地方で暮らしている知人のコの家に行くことを訣《き》めた。

そして、水商売《オミズ》で一生生きていくことを訣意《けつい》した。

アタシは…

実家の両親のあやつり人形じゃないわよ…

アタシの気持ちを分かってよ…

両親は…

アタシの花嫁姿が見たいと言うけれど…

他に楽しみがないから…

そのように言うのね…

理解できない…

アタシは、自分の実家とあいつの家と実家に対して激しいうらみをつのらせた。

2018年8月5日の昼前のことであった。

この日は、最高気温が40度近くまで上がった。

それと比例するように、不快指数もめちゃめちゃ高かった。

この日、済生会病院に10人の熱中症の患者さんが救急車で搬送された。

病院内は、ピリピリとした雰囲気に包まれた。

そんな中で、あいつは出勤と欠勤を繰り返していた。

病院内では、手術の執刀医が不在であった。

そのために、手術が必要な患者さんの手術は別の大病院で受けることが多くなった。

この日、あいつは外科部長に呼び出されたので外科部長室に行った。

ダンナは、外科部長からどぎつい口調でこう言われた。

「あんたこの頃、勤務態度が悪いようだな!!勝手に欠勤と早退をくり返していたから、手術の執刀医が不在の期間が伸びているのだよ!!キサマは医師の仕事を何じゃあ思とんぞ!!何とか言えやクソッタレ虫ケラ以下のチャイルド!!」

あいつは、おもむろな表情で外科部長に今の気持ちを伝えた。

「外科部長…私は…医師には向かない…いえ…はじめから医師の仕事なんか…やりたくなかったのです…」
「そうだろうね!!ほな!!オドレは何でキョーリン(医大)に行った!?オドレのかあちゃんは教育ママだからや、かあちゃんが用意したレールからそれるなと言われた…キサマはその通りに歩んだ…言われるままにキョーリンに進学した!!…そうなんだろう!!」
「私は…親の言いなりで…医師になりました…」
「だからキサマは、ひとりで生きて行く力がないのだよ!!」

ブッチョウヅラの外科部長は、あいつに対して解雇予告を叩きつけた。

「言わなくてもわかる通り、解雇予告だ!!オドレは今月いっぱいをもってここ(済生会)をやめてもらうことにした…言いたいことはそれだけや!!キサマみたいなヘボ医師は、うち(済生会)はいらんのや!!9月1日からは、愛大病院(愛媛県東温市)のA田医師がキサマに代わってここに来ることが決まった…病院の物品は今月中に返しておけ!!デスクもきれいに整理しておけ!!分かったかクソッタレ野郎!!バーカ、思い知ったか!!ザマアミロ!!」

外科部長からどぎつい口調で解雇予告を言い渡されたあいつは、心ない悪口をボロクソに言われた。

ひどく傷ついたあいつは、気持ちが放心状態になった。
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