【一気読み改訂版】とし子の悲劇

【第55話】

その日の夜のことであった。

ところ変わって、ラッカーで落書きされたあいつの家にて…

あいつは、両親とアタシの両親と一緒に今後のことを話し合った。

双方がおらびあい(怒鳴り合い)をしないようにと思って、武方《たけかた》さんが間に入った。

しかし、アタシの父があつかましい声で言うたので、状況が悪化した。

「サイアクだ!!しゅうさくはとし子にきついDVを加えた上に、せっかく就職した済生会病院《さいせいかい》をクビになった…おまけにオドレのきょうだいもよぉがまんできん(がまんできない)性格だから、テッポウで撃ち殺された!!…オドレしゅうさく!!」
「お父さま、落ち着いてください…」
「あんたは横から口を挟んでくるな!!」

アタシの父は、ひと間隔をあけてからあいつに言うた。

「こんなことになるのだったら…家の建築費や土地の購入代金を出すのじゃなかった…オドレの両親の教育の方針が悪いからオドレはDV男になった!!」

アタシの父の言葉を聞いたあいつのおかぁが思い切りブチ切れた。

「ンマー!!どう言うことよ!?うちの教育の方針にケチをつける気なのね!!」
「ああ!!そうや!!オドレの教育ママが原因だ!!」
「何なのよ!!」

あいつのおとうは『やめろ!!』と言うておかぁを止めたあと、アタシの父を怒鳴りつけた。

「オラオドレ!!よくもあの時、しゅうさくの前でワシの悪口を言うた!?勉強できない、うだつが上がらない父親だとよくも言うたな!!」
「ふざけたことを言わないでよ!!」
「オドレの教育ママが原因でしゅうさくがDV男になったのがまだ分からないのか!!」
「キーッ!!何なのよ一体もう!!うだつが上がらないクソジジイに言われたくないわよ!!」
「何だと!!もういっぺん言うてみろ!!」

双方がバリゾーゴンのオウシュウをくり広げていた時であった。

(バリバリバリバリバリバリ…ドスーン!!ドスーン!!…ドザー!!)

家の外で、とてつもなく恐ろしい雷鳴がとどろいた。

その後、非常に激しい雨が降り出した。

その中で、険しい表情を浮かべている武方《たけかた》さんは、双方の両親に言うた。

「あんたらは、どうしておだやかに話し合いができないのか!?」

武方《たけかた》さんの言葉を聞いたダンナの両親は、口をつむじまげにしてプンとはぶてた。

アタシの父も、口をつむじまげにしてプンとはぶてた。

アタシの母は、あつかましい声であいつに言うた。

「しゅうさくさん、どうしてとし子にきついDVを加えたの?あなたは何がイヤだったの!?…婚約したカノジョと結婚を止められたことがイヤだったのね!!」
「ウルセー!!」

アタシの母の言葉を聞いたあいつは、思い切りブチ切れた。

「あんたらのせいだ!!あんたらが(好きなカノジョ)をオレと別れささせて、後輩の医師とむすばせた…オレの人生が狂ったのはあんたらのせいだ!!」
「なに言っているのよ!!アタシと主人は、しゅうさくさんのためを思ってカノジョと別れてと言うたのよ!!」
「だまれ!!あんたらがいらないことしたからひとり娘が暴力の被害を受けたのだよ!!」
「しゅうさく!!」
「やめんか!!」

たまりかねたあいつのおとうは、言い争いを止めたあと、つらそうな声で言うた。

「もういい…わかった…しゅうさくは好きなカノジョとの結婚を楽しみにしていたのだよ…それをあんたらが別れさせた…なにがしゅうさくの幸せのためだ…しゅうさくがこうなった原因はとし子が全部悪いのだ!!」
「なんだと!!それはどういうことだ!!」
「だまれ!!しゅうさくをブジョクしたからぶっ殺してやる!!」

あいつのおとうは、アタシの父親を殴り付けた。

武方《たけかた》さんは『仲介を降りる!!』と言うて、その場から立ち去った。

外では、激しい雷鳴がなおもとどろいた。

その頃であった。

アタシは、宮脇町のマンスリーマンションの部屋で寝ていた。

この時、おそろしい雷鳴でたたき起こされた。

たしか、深夜11時過ぎだったと思う。

ほがそ(ぐちゃぐちゃ)の髪の毛のアタシは、クリーム色のクラシカルレースのブラジャー・ショーツセットを着けて寝ていた。

アタシは、天井に吊り下げている電灯のあかりをつけたあと、ほがその髪の毛をくしゃくしゃとかきむしった。

アタシはこの最近、おそろしい夢ばかりを見るようになった。

たしか…

雑木林で、おそろしい覆面をかぶった男に追われている夢だった…

白のブラウスとスカート姿のアタシは、叫び声をあげながら雑木林を逃げまわった。

雑木林を出て、河原《かわら》ヘ出た。

けれど、覆面の男はなおもアタシをシツヨウに追いかけ回した。

アタシが途中で倒れて気を失った…

…で、目が覚めた。

アタシは、キッチンに置かれている冷蔵庫を開けて500ミリリットルのアサヒスーパードライの缶を取り出したあと、フタをあけてゴクゴクとのんだ。

この時、アタシの気持ちは、サクラン状態におちいった。

アタシは、気を失った後のことを思い出した。

恐ろしい覆面をかぶった男は…

気を失ったアタシの身体をもてあそんで…

ヘーゼンとした表情で、アタシを恥ずかしい姿にさせて…

置き去りにした…

「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

恐ろしい悲鳴をあげたアタシは、冷蔵庫に入っている500ミリリットルのアサヒスーパードライの缶を全部出して、全部のみほした。

こわい…

誰か…

助けて…

助けて…
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