【一気読み改訂版】とし子の悲劇

【第79話】

あいつと義父母からどぎつい暴力をふるわれてひどく傷ついたアタシは、再び家出することにした。

着替えとメイク道具をぎっしりと詰めたボストンバッグと財布とスマホと貴重品が入っている赤茶色のバッグを持って家出したアタシは、JR牟岐線《むぎせん》と特急うずしおを乗り継いで再び高松へ逃げた。

今回は、アタシの再婚保留期間が何日か残っていたので再入籍はしていなかったが、あいつと結婚生活を送っていた事実は残る。

アタシは…

誰のために結婚したのか…

亡父《ちち》と武方さんがグルになってアタシをぺちゃんこに押さえつけたから、いつぞやぶっ殺してやる!!

アタシは、武方《たけかた》さんに対する怒りをより一層強めた。

8月13日のことであった。

アタシは、宮脇町のマンスリーマンションで一人暮らしを始めた。

バイトは、浜ノ町にあるレクサス(自動車販売店)の店舗フロアと水回りの清掃のお仕事と昭和町にあるファミマをかけもちして働くことにした。

あいつがどんな形でアタシにわびようとも、アタシは受け付けないわよ…

あいつの家の親類縁者たちを血の池地獄に墜《お》として焼き殺してやる!!

アタシは、あいつに対するうらみをさらに強めた。

8月14日頃であった。

あいつは、両親の言いなりで義父母の知人夫婦の紹介で35歳の事務職の女性・さおりさんとお見合いした。

そして、その日のうちにさおりさんとあいつは婚姻届を市役所に提出した。

義父母は『きちんとしたお嫁さんが来たので、わが家に平和がやって来たわ。』とホクホクした表情で言うた。

その後、義父母はアタシが傷つく言葉をボロクソに言いまくった。

9月1日の昼前のことであった。

この日、アタシの再婚保留期間が満了した。

武方《たけかた》さんは、あいつの家に婚姻届の書面を持ってやって来た。

武方《たけかた》さんは、あいつとアタシの入籍の手続きを取るために署名してほしいとお願いした。

それを聞いた義母が『もうだめです!!』と言うたので、トラブった。

「他のお嫁さんと入籍したからもうダメって…どういうことですか!?」
「ひろみちがちがう女性と結婚したいと言うたからとし子さんを追いだしました!!」
「なんでそんなひどいことをしたのですか!?」
「とし子さんがヤクザの元愛人であったことをご存知ないのですか!?」
「そんなことは聞いてない!!」
「他にも、とし子さんはたくさん悪いことをしました!!とし子さんは、ひろつぐとグルになっててつやさんを押さえつけたのよ!!とし子さんのせいで、ひろつぐが経営していた会社がブラック会社に変わったあと暴力団事務所となった!!とし子さんのせいで、てつやさんが行方不明になった!!…そうなった原因はとし子さんひとりにぜーーーーーーーーーんぶあります!!」
「とし子さんは、そんな悪いコではありません!!いい子ですよ!!」
「あんたがとし子さんをヨウゴするのであれば、ケーサツへ行って、とし子さんを刑事告訴します!!」
「刑事告訴するだと!!」
「ええ、その通りよ!!」

この時、家の庭の茂みに竹宮《たけみや》が隠れていた。

竹宮《たけみや》は、ちびたえんぴつでメモ書きしながら家から聞こえてくる会話を盗み聞きしていた。

「とし子さんはどこのどこまでいやたい(汚い)女かしら…竹宮《たけみや》と言う男にまだ未練があるから、ひろみちをないがしろにしたわよ!!」

義母の言葉を聞いた竹宮《たけみや》は、小声で怒った。

「勝手なこと言うなよババァ!!」

義母は、あることないことをしゃべりまくった。

「それだけじゃないわよ!!とし子さんはアタシの主人の前で裸になったあと、ふとんの中で抱き合っていたわよ!!」

竹宮《たけみや》は、小声でツッコミを入れた。

「にっかつポルノロマン映画かよ…」

義母は、さらにこう言うた。

「他にも、近所の家のご主人までつまみ食いをしていたわよ…サイアクだわ!!」

竹宮《たけみや》は、小声でツッコミを入れた。

「コラ!!ババァ!!それ以上言うな!!」

義母は、ものすごくつらい声で言うた。

「さおりさんは、35歳までじっと動かずに出会いを待っていたのよ…」

竹宮《たけみや》は、小声でツッコミを入れた。

「コンキョのないことを言うなよバカ!!」

義母は、自慢げな声で言うた。

「さおりさんは優しいし、お料理も上手で、ひろみちのことをきちんと理解ができる…申し分のないお嫁さんよ…」

竹宮《たけみや》は、小声で『ウソつけ!!』と言うた。

義母は、きつい表情でアタシの悪口をボロクソに言うた。

「それにひきかえ、とし子さんはいやたい女よ…お父さまがバカだから娘もバカよ…とし子さんのお父さまはさびしい人間よ…娘の花嫁姿を見ることだけが楽しみなんて…さびしいわね…とし子さんのお父さまはヤクザと交友関係があったからテッポウで撃ち殺されたのよ…いいきみだわ…」

茂みに隠れている竹宮《たけみや》は、ちびたえんぴつでメモ書きをしながら『ヒヒヒヒヒヒヒヒ…』と嗤《わら》っていた。

時は、夜9時前のことであった。

ところ変わって、JR昭和町駅のすぐ近くにあるファミマにて…

武方《たけかた》さんは、アタシがバイトをしている時に突然やって来た。

武方《たけかた》さんは、義母がアタシをカンツー罪で刑事告訴《こくそ》することを言うた。

言われたアタシは『訴えるなら訴えなさいよ!!いつでも受けて立つわよ!!』と激怒した。

アタシは、ゴミ箱の整理をしながら武方《たけかた》さんに言うた。

「あのね、アタシはあいつの家と仲直りする気はもうとうないわよ!!あんたね、へらみ(よそみ)ばかりしないでアタシの目をみて物を言うて!!」
「とし子さん、こっちは困っているのだよ…きのう、とし子さんの再婚保留期間が満了したので、ひろみちさんの家に婚姻届けの書面を持って行ったけど、突然突き返された…その上に、とし子さんをカンツー罪で刑事告訴すると言うたのだよ。」

武方《たけかた》さんの言葉を聞いたアタシは、怒った声で言い返した。

「そんなくだらない話は聞きあきたわよ!!…あのねおっさん!!あんたは女の幸せと言うたら結婚して赤ちゃんを産むことしか知らないの!?結婚しないと訣《き》めた女性は幸せになる権利はないと言うのね!!」
「そんなことは言うてないよぉ…」
「やかましい!!ダンソンジョヒ主義者!!」
「とし子さん、とし子さんはこのままでいいのかな?」
「告訴したいのであればしたらいいわよ!!メイヨキソン罪になることを覚悟でやるなんてムボー過ぎるわよ!!とアタシはくだらないケンカに巻き込まれるのはまっぴらごめんよ!!」
「とし子さん、このままだと本当にケーサツから呼び出されるのだよ。」
「あんたね!!下らないケンカにかかわったら、そのうち命を落とすわよ!!長生きしたいのであれば手を引きなさいよ!!あんたは多度津の桃陵公園《とうりょうこうえん》で竹宮《たけみや》が持っていた拳銃《チャカ》で命《ドタマ》ぶち抜かれそうになったのでしょ!!」
「とし子さん。」
「そんなことよりもアタシはバイト中だから帰ってよ!!帰らないのであれば、田嶋《くみちょう》に電話するわよ!!」

思い切りブチ切れたアタシは、スマホを取り出したあと知人の組長に電話した。

武方《たけかた》さんは、なさけない声をあげながら逃げ出した。
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