雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「雪野の言うように、俺はいろんなものを背負ってる。そのせいで雪野に辛い目に遭わせるかもしれない。人より苦労をかけてしまうかもしれない。この先も簡単にはいかないだろう。それでも、俺はすべてをかけてでも、雪野といたいんだ」
創介さんの目を見ていたら、その胸に飛び込んでしまいたくなる。
だから、どうしても見ていられない。
「……私は、創介さんにそんな風に思ってもらえるような女じゃない。手切れ金を言われるがまま受け取った。創介さんよりお金を取ったんです。軽蔑したでしょ? 私はそういう人間です!」
机の上の封筒に目をやった。
「軽蔑なんてしない。少しも俺の気持ちは変わらない。倉内に聞いて、それを突きつけられたおまえのことを思ったらむしろ苦しくなった。雪野は、全部、俺を守るためにやったんだ」
何の疑いもない眼差しで創介さんは私を見つめる。
「どうして、そんなこと言いきれるの……?」
私の弱々しい声が狭い部屋を漂う。
「おまえと何年一緒にいたと思うんだ。俺にとっての雪野は、そういう女だ。おまえが何を言ったところで、全部見破れる。これ以上の嘘は無駄だ」
もう涙は堪えきれなくなっていた。そんな私を創介さんが抱き寄せる。
「……私は、創介さんから一刻も早く離れるべきなんです。じゃないと、もう……」
その胸が温かくて。
抱き締める腕が、この三年の記憶を身体中に巡らせる。
「それで、一人で別れる覚悟を決めたのか?」
「でも結局、私は――」
私は結局、何も貫けなかった。
人との約束も、自分との約束も。
それに、あの綺麗な人の心を踏みにじってしまう。それを思うと苦しくて、何度も頭を振る。
「ほんとに、おまえって奴は……」
創介さんが大きく息を吐いた。
私の頬を手のひらで覆い、その瞳を更に優しく、そして少し切なげにして私を見つめた。
「もう勝手に離れて行かないと約束してくれ」
好きで好きでたまらなかった。
理屈も正論も何もかもがどこかに行ってしまうくらいに、この人のことが好きだった。
ずっと言えずに自分の中に留めておいた想いが溢れ出して。溢れるままに、頷いてしまっていた。
そんな私の頭に、創介さんが優しく手のひらを置く。頬を流れる涙と、目尻に溜まる涙を創介さんが指でそっと拭った。