雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「初めて知った。人の痛みも、温もりも。誰かに想うということも、誰かのために生きるということも。人が人として生きる、そんな当たり前を教えてくれた女だ」
与えられた環境で、自分が出来ることを必死に頑張って。いろんなことに感謝して、家族を助けて。どんな状況でも決して何かのせいにしたりしない。
そんな雪野の姿を、この三年ずっと見て来た。
「ろくでもない俺を雪野は人間にしてくれた。だから俺は雪野でなければならない。
雪野との将来を夢見たから、誰にも何も言わせないために、お父さんを納得させるために、がむしゃらに仕事して来た」
父は何も言わずにただ俺を睨み上げる。それに怯むことなく訴えた。
「確かに彼女は、金もなければ有力者の親を持っているわけでもない。あなたから見れば何も持っていない存在だと言うでしょう。でも、俺からすれば、金も権力も、いくらだって代わりはきくんだ。そんなものどれだけ集めても、彼女の価値に及ばない」
そんなことも、雪野に出会って知った。
「自分にとって、何が一番大切でかけがえのないものなのか。そんな判断も出来ないような男になりたくない」
父だって、何も持っていない女を後妻に迎えたのではないか。
だからこそ、父はむきになって俺に完璧な女を家に迎えさせようとしているのかもしれない。
でも、俺は父と同じ失敗なんてしない。
「――言いたいことは、それだけか」
父は俺から目を逸らし、冷たく言い放った。
「まだ話は終わっていませんよ」
ソファから立ち上がり立ち去ろうとした父の行く手を阻む。大事なことをもう一つ言わなければならない。