雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
すべての食事が終わり、ホテルの係の人がテーブルを綺麗に片づけてくれた。
係の人が部屋を出て行くと、改めて二人きりになる。
「……雪野」
「はい」
名前を呼ばれて見上げると、創介さんが窓際に立ち「こっちに」と小さく手招きをした。
おずおずと近付き、背の高い創介さんの隣に立つ。ちょうど肩のあたりに目線が行き整っているネクタイについ視線を取られていると、創介さんの手が私の手のひらに触れて来た。
「これから大事な話をする。雪野に、聞いてほしい」
少しだけ緊張しているようにも見える。そんな緊張感が私にも伝染して、こくんと頷いた。
触れた手のひらをぎゅっと握り締めて、創介さんが私に向き合った。
「雪野に出会う前の俺は、他人を傷つけてばかりの毎日だった」
榊君と鉢合わせた時、取り乱した創介さんを思いだす。本当の自分を知られたくないのだと言っていた。
「結婚は決められた相手とするものだと教えられていたから、女と本気で付き合おうと思ったこともない。その場限り、その時楽しめたらそれで終わり。そんな男だった。おまえも知ってるだろう?」
初対面でまさにそれを見せつけられた。
「女たちだけじゃない。理人と理人の母親も傷付けて来た。おまえと出会うまでの俺は、本当にどうしようもない人間だった」
創介さんが少し表情を歪ませてそう言った。
「そんな俺の前に、雪野が現れた。雪野が、汚れて濁りまくった俺の心を素手で触れてくるみたいで。誰かといることで、初めて癒された。雪野を見ていると、なくなったと思っていた心でも、温かくなったり苦しくなったり切なくなったりした。それが、誰かを想うという気持ちなんだと初めて知った」
手のひらにさらに力が込められる。創介さんの真剣な眼差しが私に向けられた。
「その一方で、惹かれていくほどに苦しくなった。俺みたいな男が雪野といていいのかって。でも、どうしてもおまえを手放せなかった。離れて行かないでほしくて、本当の俺を知られないようにと怯えていた。そんな俺を救ってくれたのも雪野だった」
そう言う創介さんの目が、少し赤くなった気がした。大きな手のひらが私の頬を包む。
「どんな俺でもいいと雪野は言った。知っても知らなくても変わらないから知らないままでいいと言ってくれたおまえに、俺がどれだけ救われたか分かるか? 雪野にはすべてを話すべきだと思った。俺がどんな人間だったか。どれだけ理人と母親に、酷いことをしたのか――」
創介さんは、言葉にするのも苦しいであろうことも全部私に話してくれた。