雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「理人の連絡先を知っていたら、教えてもらえないか」
(……えっ)
雪野の小さく短い声が漏れ聞こえた。
「情けない話だが、俺は理人の連絡先を知らないんだ。俺の知っている携帯番号はもう使われていなかった」
電話の向こうで雪野が押し黙っている。
理人のことで、俺が取り乱したことを思い出して困っているのだろうか。
「……変なことを聞いて悪い。でも、理人とちゃんと話したいと思ってる」
そう伝えると、雪野が理人の電話番号とアドレスを教えてくれた。
「ありがとう」
(あ、あの――)
雪野の心配そうな声が飛び込んで来る。
「ん?」
(榊君は、創介さんのこと――)
そこで雪野が口を噤んだ。
――憎んでいる。
そう言いたかったんだろう。でも、そう口には出来なかったみたいだ。
「分かってる。理人には一生許されないようなことをしたから。これまでは、それなら仕方ないと逃げていた。でも、もう逃げないと決めた。そう言っただろう?」
謝罪だけじゃない。理人にはっきりと雪野への想いを告げなければいけない。
(創介さん。私は、創介さんのことが好きです)
「――え?」
一瞬面喰う。雪野がその言葉を口にすることは少ない。
(私、この先、どんなときも創介さんの隣にいるから。だから……)
「ああ。分かってる」
雪野なりに俺を気遣ってくれてるんだろう。
俺にとって、決して簡単なことではないということも雪野は分かっている。
「雪野」
(はい)
雪野の緊張したような硬い声。
「俺はもう、何があっても大丈夫だ。おまえがいるから」
(……はい)
これからずっと、理人とのことから逃げることも出来なければ、解決することもできないかもしれない。
それでも、向き合って行く。