雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
1 最悪な出会い
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それは三年前、大学一年の秋のこと――。
東京の中心にありながら、歴史を感じさせる緑豊かなキャンパス。華やかな女子大生が行き交う中で、間違って入り込んでしまったような存在の自分がそこにいた。
私が通う大学、聖晃女子大は、お嬢様学校として名が通っている有名校だ。 ほとんどの学生が良家出身の子たちで、偏差値よりもその育ちの良さで社会から評価されているような大学だった。
常に最前列に座わり、ただ授業だけに集中する。自分とは生活レベルが違い過ぎる周囲の学生に、合わせることも合わせてもらうことも難しい。
親しい友人など、作る余裕もなかった。
本当は、高校を卒業したら就職するつもりでいた。でも、『うちには残せる資産は何もない。だからせめて学歴だけは持たせてやりたい』と言った母の強い希望で進学することに決めたのだ。
父親は既に亡くなっていて、下には弟もいる。母がパートの掛け持ちをしながら私たちを育てる――そんな家庭環境だったから、当然、国立大学のみを受験するつもりだった。
それが、受験シーズンの直前になって、担任教師からこの女子大の特待生入試を勧められたのだ。
蓋をあけてみたら、国立大学に落ち、この特待生入試に合格してしまった。
『成績を維持していれば、四年間一円も払わずに卒業できる。浪人するよりよっぽど金はかからないし、何より戸川の希望通り早く社会に出られる』
見るからに華やかな女子大に入学することに躊躇いもあったが、最後はこの担任教師の言葉が私の背中を押した。それに、母の喜ぶ顔も嬉しかった。
そうして私は、この世界に飛び込んだのだ。