雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「私は、あの人に絆されているわけでも流されているわけでもない。自分の意思であの人の傍にいるんです」
「……え?」
木村さんの目の色が変わる。
「あの人がどんな立場であろうと、どんな人間であろうと関係ない。私の気持ちは私だけのものです。誰に否定されるものでもない」
結局、私なんかに分かることは自分の気持ちだけだ。
創介さんを好きだと思う気持ち。それだけ。
「どんな結末でも、それは自分が選んだことの結果ですから後悔したりしません。全部、分かっています」
「へぇ……。見かけによらず、強いんだね」
それを強いと言うのか分からない。現に、ついさっきまでは逃げ出しそうになっていたのだから。
ユリさんに会って、そして、木村さんに会って。耳を塞ぎたくなるようなことを聞かされて。動揺して傷付いて。
それでも結局、私の気持ちは変わってくれなかった。たった一つの想いにたどり着いただけだ。
「木村さんはきっと、創介さんのことを心配してこうして私に会いに来られたんですよね」
それ以外にこの人が私にわざわざ会いに来る理由なんてないだろう。
小さい頃からの付き合いだと言っていた。二人には二人の繋がりがあってのこと。
「でも、安心してください。その時が来たら――自分の立場も引き際もわきまえているつもりです。創介さんを困らせたりしません」
それは私のちっぽけなプライドだろうか。
「……つまり、黙って見てろってことね」
「すみません」
頭を下げた。
創介さんが私に会いたいと思ってくれる間は、傍にいさせてほしい。
「……分かったよ」
木村さんが呆れたように私を見た。
「もしかして、君って結構、気が強い?」
いつの間にか届いていたコーヒーカップを手にして、木村さんが笑う。
「……そう、かもしれません」
自分のことを特別そう意識したことはない。
でも、こうして、ほとんど面識のない人を前にして自分の言いたいことを言ったり、あの人が雲の上のような人だと分かっても傍にいると決めたり。
知らなかっただけで、私は結構頑固なのかもしれない。創介さんと出会って、知らなかった自分を知るようだ。