雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
2 ただ、そばにいたい
池袋駅からすぐの場所にある全国チェーンの牛丼店が、私が大学生になって始めたアルバイト先だ。
ターミナル駅のすぐ近くということもあって、お客さんは時間を問わずひっきりなしに現れる。
この日も、16時から働き始めて座ることが出来たのは21時近くだった。
「ああ、雪ちゃん。今、休憩?」
「はい。律子さんはどうしたんですか?」
疲れて何もする気になれなくて、ロッカールームで足を伸ばすようにただ座っていると、一緒に働くパートさんがやって来た。律子さんのシフトは入っていなかったはずだ。
「ちょっと忘れ物しちゃってさ。思い出して取りに来た。どうせ暇だしね」
竹田律子さんは29歳の主婦だ。お子さんはいなくて旦那さんも単身赴任中だから実質一人暮らしのようなものらしい。
「明日はシフト一緒だよね。じゃあ、また明日ね」
ロッカーから何かを取り出すと、律子さんは私に笑顔を見せてくれた。
「あ、あのっ、律子さん!」
ここで今会えたのも、私にとってはチャンスだ。帰ろうとしていた律子さんを引き留める。
「そんな大きな声出して、どうした?」
大きな目をもう一回りくらい大きく見開いて私を見ていた。
「あの、もし、都合がよければでいいんですけど、来週の土曜日、シフト代わってもらえませんか? 本当に、可能だったらでいいので……」
勇気を振り絞り切り出す。
雪が降った夜に創介さんと会ったあの日の翌日。旅行の日程を決めるためのメッセージが届いた。
まさか、創介さんとの旅行が現実のものになるとは思わなかった。ましてや、こんなに早く実現するなんて。
「雪ちゃんがシフト代わってなんて珍しいじゃん。来週の土曜日……うん、大丈夫だよ。その次の週はクリスマスで旦那が帰って来るからダメだったけど、その日ならオッケーだよ」
「あ、ありがとうございます。助かりますっ!」
ホッとしたのと嬉しいのとで思い切り頭を下げた。