雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「なになに、彼とデート? お姉さんに言ってごらん?」
帰ろうとしていたはずの律子さんが私の傍に近寄って来て、肩をぐいぐいとつついて来る。
「は、はい。そんな感じです」
――デート。
その単語を使うのは何となく躊躇われるけれど、律子さんには正直に答えた。
大学には親しく付き合えるような人はいない。ましてや創介さんのことなんて話せるわけもない。そんな私にとって、律子さんは、唯一自分のことを話せる人だった。気さくで優しい人柄と、歳の離れた大人の女性。それが、私を素直にさせる。
「よかったねー! 例の社会人の彼でしょ? ここぞとばかりに甘えちゃいなよ? いつも向こうのペースで会ったり会わなかったりで。都合よく扱われてるんじゃないかって、心配なくらいんだから」
好きな人が年上の社会人でその人と時折会う関係だと、そう律子さんには説明していた。それくらいしか話せることはないけれど、それでも誰かに話せるのは私にとっては唯一の慰めだった。どこにも吐き出すことのできない行き止まりの想いは、いくら納得していることだとは言え、たまには吐き出したくなる。
「心配させちゃってすみません。でも、大丈夫ですよ。いつも忙しそうなので、分かっていることなんです」
「もう、本当に雪ちゃんは健気だねぇ……って、待って! 確か、雪ちゃん日曜日はもともと夕方からのシフトだったよね……ということは、もしかしてお泊りデート?」
「……は、はい……」
どうしたって恥ずかしくて俯いてしまう。
「きゃーっ。いつも我慢してる分、絶対甘えてわがまま言うんだよ? 女は耐えてるばかりじゃだめだからね」
「耐えているばかりなわけでは――」
「だって、自分からは連絡しないっていうし、相手から会おうと言われれば会うだけなんてさ、そんなの付き合ってるっていうには悲しすぎるじゃない?」
”付き合っている”とは言っていないんだけどな……。
真剣に訴える律子さんに苦笑してしまった。
「私もバイトで忙しいし、お互い様です」
「っもう! まあ、いいや。とにかく、旅行でたっぷり可愛がってもらってきなよ!」
律子さんが、ばんっと私の背中を叩いた。
"予定、空けられました"
この日バイトを終えると、すぐに創介さんにメッセージを送信した。
夜寝る頃に、返信が届いた。
"よかった。俺の方で宿は手配しておく。17日、朝9時に迎えに行く"
ベッド脇の目覚まし時計を見てみれば、0時半を回ったところだった。
創介さんからのメッセージはその時間帯が多い。
いつも、こんな時間まで仕事をしているんだろうか。
旅行の二日間は、少しでも安らいでもらいたい。
布団の中で寝返りをうち目を閉じた。