雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
次の日は大学が休みで、朝からバイトのシフトを入れていた。
「――ねえ、雪ちゃん。あのお客さん、最近よく来るよね?」
注文を受けて厨房へとオーダーを伝え終わると、ささっと私の横に寄って来て律子さんが耳打ちした。
「ほら、カウンターの一番端にいる男の子。雪ちゃんと同じくらいの年齢じゃない? あの子、めちゃくちゃイケメンだから目立つ目立つ」
それ以上の会話は忙しい店内では無理で、律子さんはすぐにフロアに戻って行った。
律子さんが向けていた視線をたどり、そのカウンター席に座るお客さんを見る。
一人で単品の牛丼を食べていた。
こんな言い方はおかしいかもしれなけれど、酷く牛丼の似合わない雰囲気の人だった。
細身な上に透き通るような白い肌、男の人だけれど綺麗な顔立ちと言う方がしっくり来る。
ちらりと盗み見るだけのつもりだったのに、思いもよらず目が合ってしまった。
お客さんをじっと見るなんて、失礼過ぎる――。
咄嗟に視線をそらそうとした時、そのお客さんがふっと微笑んだ。
余計に慌てふためき、素早く小さい会釈をして厨房に戻った。