雪降る夜はあなたに会いたい 【上】


 連れて来られたのは、六本木の高層マンションの最上階にある部屋だった。何重にも施されたセキュリティーをくぐり抜けてその部屋のドアの前に立った時、来るべきじゃなかったとすぐに思い知った。

こんなところ、私なんかが関わる場所じゃない――。

手に持っていた傘の柄を握りしめ、踵を返そうとした瞬間に彼女に腕を取られた。

「ここに来てるのは、慶心(けいしん)大の子と私たちの大学の女の子だけだから。そんなに緊張しなくても大丈夫」

全然大丈夫なんかじゃない。

慶心大と言えば私立の超有名大学だ。偏差値も高ければブランドもある。それに、大学生でこんなところに住んでいる人たちがすることなんて想像すらできない。

 慣れた手つきで彼女がインターホンを押すと、「入って」と短い声が聞こえて来た。

その扉が開くとすぐに、長い廊下が伸びている。何人住むことを想定した玄関なのだろう。これだけで一部屋分になりそうなほどの広い玄関ホールだった。
 大理石の床を進むと、着飾った男女が入り乱れた広いリビングがあった。それは、都心のビル群を望める、ガラス張りの恐ろしいほどに広い部屋だった。

「ごきげんよう」

さっきから私の腕をきつく掴んでいる彼女が、甲高い声を上げた。その声に、視線が一斉にこちらへと向けられる。

 自分に向けられた好奇の目が、身体を強張らせた。上から下まで蔑むような視線を投げかけられて、身がすくむ。

「こちらにいるのは、戸川雪野ちゃんと言って私のクラスメイトなんです。今日は急遽来てもらいました」

一瞬しんとした部屋が、彼女の声でざわつき始めた。

――あの女子大に、あんな子いるの?
――こんな場に連れて来られちゃって可哀そうに。固まっちゃってるよ?

緊張して微動だに出来ないくせに耳だけは冴えわたって、そんなひそひそ声があちらこちらから聞こえて来る。

もう帰りたい。

そう思っても、腕は彼女に強く掴まれたままでどうすることもできなかった。

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