雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「まずは、このパーティーの主役であるソウスケさんに挨拶をしないといけないから」
彼女に耳打ちされて、引きずられるように連れて行かれる。
髪形もメイクも服装も、何もかもが自分と違う華やかな女の子たちと、見るからに育ちの良さそうな男の子たち。そんな人たちを掻き分けながら、部屋の真ん中に置かれた革張りのソファにゆったりと座る男の前に突き出された。
「ソウスケさん、お久しぶりです。今日はお招きいただきまして、ありがとうございます」
彼女がアイドルのような笑顔をその男に向ける。すると、両隣に座らせていた女の子と喋っていた男がゆっくりと顔を彼女に向けた。
「おまえ――」
発せられた声の低さと冷たさに息をのむ。
「誰だっけ?」
目の前にいる男は表情一つ動かさずにそう言い放った。完璧な笑顔を作ったはずの彼女の顔が、一瞬にしてそのまま固まる。
何かスポーツでもしているのか、服の上からでも分かる鍛え上げられた身体つき。長い脚を投げ出すように組みながら、感情のまったくうかがえない目で彼女を見上げていた。
「そ、そんな意地悪なこと言わないでください。この前、一緒に過ごしてくれたじゃないですか……」
それでも必死に笑顔を貼り付けているけれど、その声は震えている。
「ユリちゃん、ソウスケにそんなの通用しないよ。一度寝たくらいじゃ記憶に残らない男だもん」
ソファにもたれるようにして立っていた、もう一人の男が満面の笑みで答えた。
ソウスケという人を取り囲むように座る二人の女の子たちも、クスクスと笑う。
背筋に冷たいものが流れるような感覚に襲われた。
この世界は、一体、何――?
彼女は立ち尽くしたままで動けないみたいで。隣に立っているだけで、その心境が伝わって来てこちらまで胸が痛む。
「……まあ、でも。せっかく来たんだし、楽しんで行けよ」
尊大な男の一目見られただけで怯んでしまいそうな鋭い表情のせいで、ほんの少し口角を上げただけでその差が際立つ。その冷たい微笑は、自分に向けられたわけでもないのに胸の奥をざわつかせた。
「は、はいっ! ありがとうございます。そうさせていただきます」
彼女は息を吹き返したように頬を上気させた。
このほんの数分のやり取りで、この男がどんな男か想像がつくと言うのに、その目は心の奥底の何かを刺激する。