雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
ほのかな明るい光を瞼の裏で感じる。何度か瞬きを繰り返してから、眩しさを遮るようにゆっくりと瞼を開けた。
寝室に、部屋の向こうからの太陽の光が差し込んでいる。朝が来たのだと認識して、はっとすると、すぐに創介さんの目と合った。
「……雪野、おはよう」
朝、目を覚ましたら、すぐ近くに創介さんがいる――。
その事実に、無意識のうちに鼻の奥がじんとした。
「起きてたんですか? いつから起きていたの?」
思いもよらないほどの至近距離で、あれから結局創介さんの腕の中で寝てしまったのだということに気付く。
「ああ……いつかな。明け方、くらいか」
「えっ? それからずっと、起きていたんですか?」
明け方って、それは、ほとんど寝ていないということになる。
「そうだな。ずっと、雪野の寝顔見てた」
「やだっ。どうして、そんなこと。私、どんな顔して……っ!」
寝顔なんて、自分でもどんな顔なのか分からない。
酷い顔で寝てたらどうしよう――。
考えれば考えるほど恐ろしくなってきて、思わず布団の中に顔を隠した。
「起きた今隠れても、もう遅いだろ? ほら、顔を出せ」
「嫌です! 今はちょっと、隠れさせて」
口でも開いていたら?
目も半開きだったり……?
まさか、いびきとか――。
「雪野」
「無理ですっ! もう、やだ……」
頑なに布団を握り締める。
布団に創介さんの手が掛けられたのが分かって、私はより強く掴んだ。
「……強情だな。力で俺に敵うはずがないだろ」
布団にくるまった蓑虫みたいな私を抱えて布団を剥ぐ。顔だけを布団から出した私を見て、創介さんが笑った。
「恥ずかしいのか?」
「恥ずかしいに決まってます」
創介さんが笑うから、余計に恥ずかしくて顔を逸らした。
「どれだけ見ていても飽きなかったぞ」
「それは、変な顔してたからでしょ」
本当に創介さんは意地悪だ。
「目を逸らせないくらい、可愛いかった」
「そ、創介さん……っ」
「だから、安心しろ」
今度は違う理由で恥ずかしくなり目を伏せた。
私が可愛いはずない――。
そう思うけれど、創介さんがあまりに優しい声で言うものだからそのまま黙っていた。
十時を過ぎた頃に宿を後にした。
降り続いていた雪のせいで、一面、何もかもが雪に覆われて、この日も真っ白な世界を見せてくれた。
「目に焼き付けたか?」
「はい。しっかり。奥の奥まで焼き付けておきました」
その景色の前で二人並んで立つ。
来た時もそこにあった、雪をかぶった山と、湖。何も変わらないのに、時間は流れて、朝を迎えた。
私たちは、自分たちの生きる場所へと帰る。