雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
3 忍び寄る現実
「わーっ、ありがとう!」
バイトを終えた後、休憩室で律子さんに旅行のお土産を渡した。
「ねぇ、これめちゃくちゃ高そうなんだけど」
しっかりとした化粧箱に見た目も綺麗な和菓子が並んでいる。あの売店で一番高いだけのことはあるなと、苦笑した。
「なんだか気を使わせてごめんね」
「律子さんのおかげですから。彼が自分もお礼したいからって、二人で出し合ったので気にしないでください」
律子さんは私の家庭状況も知っている。高いものを買わせてしまったと気遣わせたくなくて、慌てて弁解した。
「いい彼氏じゃーん。その彼、付き合っているわけじゃなくて、連絡があれば会うだけの関係だなんて言ってるけどさ。それって、雪ちゃんが勝手にそう思い込んでるだけなんじゃないの?」
パイプ椅子に座る律子さんが私に顔を近付けて来る。
「私も最初は、雪ちゃんの気持ちに付け込んでいいように扱われてるんじゃないかなんて思ってた。けど、雪ちゃんの話聞いてたら、そうと思えなくなって」
律子さんはパイプ椅子の背もたれに頬杖をついて、考え込むような表情をした。
「『好きだ』とか『付き合おう』とか、はっきり言葉にしない男って結構多いんだよ? 『言わなくても分かるだろ?』なんて感じでさ。うちの主人なんてプロポーズの言葉はなかったし」
律子さんの言葉に曖昧に笑う。
「私の言ってること信じてないって顔だ。でも、雪ちゃんより多く生きている先輩としては、彼はちゃんと雪ちゃんのこと好きなんじゃないかなって思うよ?」
さっきまでの明るくはしゃいだ雰囲気ではなく、少し真剣になる。そんな律子さんの言葉を、ただ静かに聞いていた。
「言葉って意外に簡単な時もある。心がなくたって口さえ動かせば言葉は吐ける。その場しのぎの甘い言葉とか。一方で、本当に思っていることほど言えなかったりする。その点、態度って、どれだけ取り繕ってもふっと本音が出てしまうもの」
言葉と態度。
私たちは――。
「今回の旅行、雪ちゃんのための『卒業旅行』って言ってくれたんでしょ? ”クリスマスプレゼント”ではなく”卒業旅行”。そういうの、常日頃から雪ちゃんのこと考えていないと出て来ない発想だと思うけどな」
「律子さん、ありがとう……」
笑顔でそう返した。
「雪ちゃんはすっごく素敵な女の子だもん。もっと自信を持ちな!」
私の肩をポンと叩く。
律子さんには創介さんがどんな立場の人かを一切話していないから、そんな風に考えてくれるのも無理はない。