雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「――ちょうど良かった。戸川さん、まだいてくれたんだね」
律子さんと話しているところに、店長がやって来た。
「お疲れ様です」
慌てて立ち上がり挨拶をすると、店長に続いて一人の男の人が現れた。
「今度、新しいバイトさん入るから。こちら、榊君――」
「あーっ!」
店長の声を遮るように、律子さんが大きな声を上げる。
「竹田さん、急に何?」
「あ、いえ、何でもありません」
慌てて声のトーンを落として、律子さんが私に耳打ちした。
(あの子、ここ最近、毎日牛丼食べに来てたイケメン君だよね?)
そう言われてみれば……。
確かにその顔に見覚えがある。
「大学四年の 榊理人です。よろしくお願いします」
「雪ちゃんと同級生じゃない?」
礼儀正しく頭を下げた彼を見て、律子さんが言った。
「そっか。なら、ちょうどいいかな。戸川さん、榊君にいろいろ教えてもらえるかな。指導係、頼むよ」
「はい。分かりました」
店長にそう告げられて、改めて榊さんに身体を向ける。
「戸川と言います。これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
穏やかで丁寧な喋り方。そして、創介さんと同じ名字。
榊さんの第一印象はそれだった。
こうして改めて向き合ってみても、律子さんが言うように驚くほどに端正な顔立ちをしている。色白の透き通るような肌は、女子にも引けをとらない。
欠点なんて一つも見つけ出せないほどに完璧な外見でも、醸し出す雰囲気は優しげで穏やかな好青年といった感じだった。
「店長、若い男の子が入って来るの、久しぶりじゃないですか?」
「竹田さん、既婚者なのにはしゃぎすぎ」
店長と律子さんのやり取りを、榊さんは静かに笑って見ていた。