雪降る夜はあなたに会いたい 【上】

 細身で長身の彼は、こうして雑踏の中を歩いていても人目を惹くらしく、さっきから女性たちの視線を感じ続けている。

確かに、つい二度見してしまうような容姿だよな……。

他人事のように、隣を歩く榊君を見つめてしまった。

「ん? どうかした?」

敬語でなくなった榊君は、同級生なのだと改めて実感させる。

「あ……えっと、榊君はどこに住んでるの?」

とりあえず、思いついた質問を投げかけておいた。

狛江(こまえ)に住んでる。アパートで独り暮らししてるんだ。狛江って知ってる? ここからだとちょっと遠いよね」
「本当に? 私も狛江だよ!」

あまりにびっくりして声を張り上げてしまった。

「すごい偶然だね。 池袋のバイト先に狛江に住んでる人なんていないと思ったよ」
「それは私も同じ」

東京都狛江市は多摩川の傍にある住宅街だ。都心からは少し離れている。

「じゃあ、電車同じだね」

榊君が柔らかな笑みを浮かべた。

 夜二十二時を過ぎた山手線内は、仕事帰りのサラリーマンや私たちのようにアルバイトを終えた学生たちでごった返している。吊革につかまり、榊君と並んで立っていた。

「竹田さんに聞いたんだけど、戸川さんって、聖晃女子大なんだって? お嬢様だ」
「ああ……確かに大学はお嬢様かもしれないけど、私は違うから。見ての通りね」

私の身なりを見ればお嬢様には見えないと思うけれど、それだけこの大学名に威力があるということだ。

「見ての通りって、僕は、戸川さんは品がある子だなって思うよ?」
「ええ? そんなはずないよ―」

つい笑ってしまった。

「そんなこと言ったら、榊君だってとても育ちが良さそうに見える」

綺麗な肌と色素が薄いさらりとした髪、麗しい見た目はそう――王子様みたいだ。
男の子に使う言葉ではないかもしれないが、『綺麗な顔』そのものだ。

「僕、結構苦学生だよ? それを証拠に君以上にシフトを入れてるだろ?」

来月のシフト表は、確かにほとんどの日に彼の名前があった。清潔感はあるけれど、服装もどことなくシンプルで質素な感じもする。


 新宿で小田急線に乗り換えて、狛江駅で二人降りた。

「じゃあ、また」
「うん。じゃあ気を付けてね」

駅前のアパートに住んでいるという榊君とは駅で別れた。
こんなに近くに住んでいたのに、これまで一度も見かけたことはなかった。
もしかしたら知らない間にすれ違っていたりしたのかもしれない。



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