雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
無事、指導係の役目も終えると、榊君は池袋店の戦力として働いていた。その後も、榊君とシフトが同じになることが多かった。
――僕、結構苦学生だよ?
あの言葉は本当なのだろう。基本的に人手不足だから、同じ時間帯に入るキッチン担当以外のバイトは二人。自動的に、榊君と私ということになる。
この日は、私の方が榊君より一時間終わりが遅いシフトになっていた。
夜二十二時を過ぎ着替えを終えてから店の裏口から出ると、ビルの壁にもたれて立っている榊君が視界に入った。
「あれ? 榊君、まだ帰ってなかったの?」
十二月下旬、夜は本格的に冷え始める。不思議に思って声を掛けた。
「ああ……。少し待てば、戸川さん出て来るかなって思って」
「……え?」
驚いて、榊君をまじまじと見る。
「ああ、いや。僕、少し上がりが伸びたからさ。そんなに待っていたわけじゃないんだ。帰りの駅同じだし、どうせなら一緒に帰ろうかなって。もしかして、この後誰かと約束とかある?」
「約束なんてないよ。どうして?」
「だって、今日はクリスマスイブだから……」
少し緊張した面持ちで私の顔を見る。
ああ、そうか。今日は、クリスマスイブだった。
「クリスマスだってことも忘れていたくらいだよ。私もこれから帰るだけ」
そう伝えると、思わず空を見上げてしまった。
都会のビルが立ち並ぶ路地裏から見る空は、恐ろしく狭い。
創介さんは、どんな風に過ごしているかな――。
「……そっか。良かった」
息を吐くようにしみじみとした声に、榊君に視線を戻した。
「これ、どうぞ」
榊君が、コーヒーショップでよく見る紙のカップを私に差し出して来た。
「カフェオレ。クリスマスだし、なんとなく、一緒に飲もうかなって」
「あ、ありがとう」
口に付けてみると、それはまだ飲むには熱い。
「ううん。寒いから、あったまるよね」
そう言って榊君も同じものを飲み始めた。
雑踏から少し離れた路地裏で、二人で壁にもたれてカフェオレを飲んだ。
「あのさ……」
カップを口から離し、榊君がぼつりと言葉を零す。
「クリスマスイブの日に、こんな時間までバイトしているということは、戸川さんには恋人はいないと思っていい……?」
「う、うん。いないけど――」
恋人は、いない。でも――。
すぐに創介さんの顔が浮かび上がる。
そんな自分に心の中で苦笑する。
そう言えば、クリスマスイブに創介さんと過ごしたことはない。
一緒に過ごせるなんて、考えたこともないけど。
「いないんだ。じゃあ、僕と同じだ」
「本当に? 榊君こそ、早く帰らなくていいの?」
心がそのまま創介さんのところに行ってしまっていた自分を、ここに引き戻す。
「何の支障もないよ。むしろ、こんな日にバイトがあってよかった。だって――」
榊君ほどの人だ。恋人がいても何ら不思議じゃない。
「こうして戸川さんと話せたから」
榊君が、いつの間にか壁から離れて私の真正面に立っていた。