雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「……どうして、私?」
意味が分からなくて聞き返す。
そうしたら、ふっと表情を崩した榊君が溜息をついた。
「そこで、『どうして』って普通聞くかな……」
本当に言っている意味がわからないのだ。だから、そう聞き返しただけのこと。
「……戸川さんは、そういう人なんだね。鈍感なのか関心がないのか……でも、別にいいよ。これから分かってもらうようにするから」
ますます分からなくなる。
そんな時、バッグの中のスマホが振動した。
「電話?」
「ううん、メールみたい」
榊君が視線を私のバッグに移した。その視線が気になりつつも、スマホを手にする。
創介さんからのメッセージだった。
「ちょっと、ごめんね」
その場から少しだけ離れそのメッセージを開く。
”今日は、クリスマスイブだったな。今夜も寒いから、風邪ひくなよ”
創介さんからのメッセージはいつも短いけれど、こうして私のことを思い出してメッセージを送ってくれることが嬉しい。
年末から年明けにかけて海外出張に出ると創介さんから聞いていた。その準備で忙しい頃だろう。
「――どうしたの? 随分、嬉しそうだね」
「ううん、なんでもない」
榊君の声が耳に届いて、慌ててスマホを鞄にしまう。
「……じゃあ、帰ろうか」
その声が少し低くなったような気がした。
でもその表情は変わらず笑顔で。私の気のせいだったのだろう。
冬休みはバイトのシフトを増やしていた。
バイト三昧だったけれど、元旦だけは家族三人で初詣に出かけた。毎年の恒例行事だ。
「優太は、初日の出を一緒に見に行く彼女もいないの?」
母が呆れたように優太の肩を叩く。
「余計なお世話。彼女なんかいなくてもな、バイトにサークルに超リア充なんだよ。それより、そろそろ社会人になろうという人の方が問題じゃないですか? 毎年、相も変わらず家族と年末年始を過ごしてますけどー」
隣を歩く優太が横目で私を見て来る。
「こっちも余計なお世話。放っておいてよ」
私も母に続いて、優太の肩をつついた。
「クリスマスだって毎年バイトでさ。行き遅れとか、やめてくれよなー」
「うるさい」
やり合う私たちに母の声が入り込んだ。
「雪野は大丈夫。社会人になったら急に出会いがあったりするのよ。『自分なんて』と思っていても、大人になると自分と見合った相手が出て来るものよ?」
――自分と見合った相手。
市役所に勤めれば同じような価値観を持った人と出会って、いつか、穏やかで未来を見ることのできる恋をするのだろうか。
「おい、姉ちゃんどうしたんだよ。人にぶつかるだろ」
「う、うん。なんでもない」
無理矢理に笑顔を作る。
まだ先のことなんて考えたくない。
そう思い続けて、既に三年が経っている。
必ず行き止まりが来る道を、私はひたすらに歩いていた。