雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「創介さんには負うべき責任があります。将来、丸菱のトップに立つためには、一つの隙も作るわけにはいきません。それだけ厳しい世界です。創介さん自身の努力はもちろんのこと、ご結婚される方においても、創介さんを助け支えとなる方でなければなりません」
決して声を荒げられたわけでもない。ただ、事実を淡々と告げられる。
それが余計に辛かった。
「創介さんに今、今後の丸菱グループを左右する非常に重要な縁談が進んでいます。これを破談にするわけにはいかない」
榊君に聞いておいて良かったのかもしれない。聞いていてもこの胸の痛みだ。
「その方は、次期総理最有力と言われる、現政権の閣僚のご息女です。代々政治家を輩出する由緒正しい名門のお家柄の方。それがどれだけ強力な力添えになるか分かりますね?」
次の総理大臣の――。
なんの現実味も湧かない存在だ。
遠い遠いどこか別の世界のこと。自分と比べることさえできない。
創介さんは、そういう世界にいる。
全部、分かっている。創介さんの立場ならその立場にふさわしい人がいる――。
頭では分かっていた。分かっていたのに、生々しい痛みが胸を刺す。
「私は、創介さんが社に入ってからの仕事ぶりを間近で見て来ました。それはもう、本当に身を削って努力されている。それはきっと、創介さん自身も将来トップに立ちたいという思いがあるからでしょう」
私だって、すべては知らなくとも創介さんが仕事を頑張っていたのはよく分かっている。
創介さんもお父様と同じ未来を見ているはずだ。きっと、そのためにいつも頑張っている。
「この縁談は、丸菱にとっては勿論のこと、創介さんにとっても必ず将来のためになります。だからこそ、この結婚以外の選択肢はありません」
「……お話はよく分かりました。でも、そのことは創介さんもよく理解されていることですよね。なので、ご心配いただく必要はないと――」
――私との関係を終わらせる。
縁談が進んでいる以上、創介さんもそのつもりでいるはずだ。
「あなたから離れていただきたい。それをお願いするために、こうやって戸川さんに話をしに来ました」
「……え?」
その言葉の意味がよく分からない。
私は驚きを隠せずにいると、倉内さんが言いづらそうに話し出した。
「……創介さんは、あなたとの関係を終わらせるつもりはないようです。あなたのことを、愛人にでもするつもりでしょう」
まさか。