雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
それはつまり、奥さんのいる創介さんと会い続けるということ――。
「あなたは、真面目に勉学に励み家族を助けるためにアルバイトも頑張っている。そんなあなたが、誰かの愛人になどなれますか?」
創介さんがそんなことするはずない――。
咄嗟にそう思ってしまった。
「すみません、こちらへ来ていただけますか?」
動揺する私をよそに、倉内さんは突然立ち上がった。訳が分からないままに倉内さんに続く。
何を思ったのか、私の席から見えていたバンケットルームの入り口へと私を連れて行った。
「――あちらにいる薄紫色の着物を着た方、分かりますか?」
言われるままにその姿を会場内に探す。少し離れた先に、艶やかな振袖を着た女性を見つけた。
「あの方が、創介さんの縁談のお相手です。とても、お綺麗な方でしょう?」
無意識のうちに手をぎゅっと握りしめていた。
目の当たりにしたその人は、美しさに溢れてきらきらと輝いていた。綺麗なだけじゃない。滲み出る雰囲気は、品が良くて育ちの良さを感じさせる。
そして何より、優しそうで柔らかな表情をしていた。
大学で何人ものお嬢様を見て来た。その誰とも違う、本当に綺麗な方で。美しくまとめられた髪に、透き通るような白い肌。優しく微笑んでいる。
「外見だけではないんですよ。本当にお心も綺麗な方なんです。奥ゆかしくて、お優しくて。ただの政略結婚ではありません。家柄や条件だけではない。あんなにいい人はなかなかいません」
見ただけで分かる。人格は外見にも滲み出る。
本人を見てしまえば、もう、わずかに残る足掻きも吹き飛んだ。
「……あの方ならきっと、創介さんは幸せになれますね」
その人を見つめながら、私はそんなことを口にしていた。
「え? あ、ああ、そうです。間違いありません」
扉の影に隠れて盗み見ている私は、着古したジーンズにセーターを着て、その上に一つしかないコートを着た何もない女だ。
あの人の隣に創介さんが立ったら、きっととてもお似合いだろう――。
そう思った時だった。