雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
年配の方と連れ立った創介さんが、その女の人の前に現れた。
創介さんのスーツ姿はいつも見ていたけれど、私の見ていた創介さんとは全然違って見えた。どこから見ても上流階級の男の人。この場にいる誰よりも、立派に見えた。
お相手の女性と向き合って話をしているその二人の姿は、本当に自然で、どこにも違和感はない。そういうことだ。しっくりと二人で並んで立つ姿が、私の目に焼き付けられる。
創介さんの隣に立つのは、私じゃない――。
今度こそ、ちゃんとそう思える。
創介さんを見上げるその人は、ほんのりと頬を赤くしていた。恥ずかしそうにしながらも、その表情は美しく綻んで。
一目でわかってしまった。きっと、あの人は創介さんに恋をしている。倉内さんの言う通りだ。ただの政略結婚じゃない。創介さんを大事に想い、きっと、創介さんを優しく包み込んでくれるはずだ。
私はもう必要ない――。
そう納得したのに、頬に生暖かいものが流れ落ちて行った。ちゃんと現実をこの目で見て、心も頭も理解したはずなのに、胸が抉られるように痛い。痛くて痛くてたまらない。
「――私は、創介さんのことを子供の頃から見て来ました。いろんな闇を抱えて育ち、冷たい心を持った人間になってしまった。でも、創介さんは変わりました。それはきっとあなたのおかげなのでしょう。ありがとうございました。社長に代わってお礼申し上げます」
背後に立っていた倉内さんが私に頭を下げる。
その姿を見れば、堪えていた涙が溢れそうになって私は口元を押さえた。
そして、すぐに涙をぬぐう。
倉内さんは、創介さんのお父様の意思を代弁するために私に会いに来た。最後の力を振り絞って、倉内さんを真っ直ぐに見つめた。
「創介さんとは、もう会いません」
何もかもを振り切るように深く頭を下げる。
その時目に入ったのは、染み一つない赤い絨毯と何も考えずに履いて来た古いスニーカーだった。