雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
約束の土曜日、待ち合わの時間は14時だった。
自分の部屋で、鏡の前に立つ。
いつも余裕がなくて、創介さんに会う日でもお洒落なんかしたことがなかった。最後くらいは綺麗にして会いたいと思う自分の浅ましさに呆れる。
いつもただ一つ結びにしていた髪をそのまま流し、唯一のワンピースを着た。色こそ地味なネイビーだけれど、スカートなんてめったに着ないからなんだか足元が心許ない。
ちゃんと、終わりにして来るから――。
チェストの上に置いた象のぬいぐるみに視線をやった。その横に置いてある封筒からは目を逸らす。
「出かけんの……って、なんだよ、珍しくめかし込んで。まさかデートか?」
自分の部屋を出てすぐの和室で、昼食を食べ終えたのか、優太がごろごろしながら雑誌を読んでいた。
「違います。今日は遅くなるから、お母さんにもそう伝えておいて」
「母さん、パートの助っ人とかで、他県の店舗に泊まりで行くって言ってなかったか?」
「それ、明日でしょ」
母の働く惣菜店では、時おりそういうことがあった。
「あ、そっか。でも、俺もサークルの合宿があるから。三泊四日。今日の夜、深夜バスで行くんだ」
「分かった」
「……やっぱり、デートなんだろ?」
優太のニヤリとした顔に、思わず声を張り上げる。
「だから、違うって言ってるでしょ! バカなこと言わないで」
「な、何だよ、こえーな。ムキになるなよ」
ぶつぶつ言う優太を残し家を出た。