雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
* *
見合いの日取りを宣告されたのは、ちょうどあの日――。
理人と雪野が二人でいるところを見てしまった雪の日だった。
社長室に呼ばれた時、仕事の話ではないという直感があった。こういう時の直感は、まず外れない。
最初に見合い話が持ち上がったのが三年前。昨年末から、その縁談話が再び動き出していた。
これまで、なんとかかわして来た。でも、この日ばかりはさすがの父親も怒りをぶちまけて来た。
「まずは仕事に専念したいというおまえの意向をここまで聞き入れてやって来た。もう三年だ。これ以上は待てない。来週の日曜日、見合いの日程を組んだ。予定を開けておけ」
「待ってください。三年ではまだまだ一人前には程遠い。今は、仕事に全力を傾ける時期だと思っています。それに、何度も凛子さんと結婚はできないと言って来たはずだ」
そんな俺の訴えなんか、父にとっては聞く価値すらないと思っている。
「その歳にもなって、馬鹿なことを言うんじゃない。おまえの考えていることなど分かっている」
父の目が鋭く光る。
「……まだ、切れていないのか? 三年もあったというのに、まだ例の女とは会っているのか」
大学四年の時、同じように見合いはできないと言った。
『大切にしたい人がいる』
自分の放ったその言葉が、父にとってどれだけ無意味で取るに足らないものなのかを改めて実感させられる。
「私は、これまでおまえのことを尊重してきたつもりだ。あの時、無理にでも見合いをさせその女を切らせることも出来た。それを、三年という時間を与えたのだ。自分でけりをつけさせるためにな。おまえを信じたからだ。その信頼を裏切るつもりか!」
滅多に声を荒げない父の怒声に、本気なのだと思い知る。
それでも――できない。
「その信頼は仕事で返してみせます。ですから、結婚だけは、どうか――」
「ふざけるな!」
さらに鋭い声に、いつもはまったく表情を動かさない父の側近、倉内が眉をぴくりとさせた。
「あの宮川先生を三年待たせている、その意味が分からないのか? おまえは何のためにこれまで生きて来た。今更こんなことを私に言わせるな」
興奮した父も自分自身に驚いたのか、息を吐き、冷徹な目を俺に向けた。
「――とにかく、来週の日曜日。これは絶対だ。社長命令だと言っておく」
親でも子でもない。結婚はもはや業務の一環だとでも言うように宣告する。
「ですが――っ」
「もし、おまえが来なかったら。その時は、私が直接その女性に手を下す」
「お父さん!」
これまで、社を大きくしていく中で、冷徹なことも非道なこともしてきたのだろう。こんなことくらい、父にとってなんてことないことなのだ。
一人の人間を排除することくらい、なんでも――。
「守りたい女なら、自分がすべきことが何なのかよく考えなさい。もう下がれ」
「お父さん、話を聞いてください!」
「下がれと言ったのが聞こえんのか? 倉内、例の吉田会長との会食はどうなった」
「はい。日程の了解は得られました」
もう用はないとばかりに、父はもう既に俺から視線を外していた。これが、最終警告だ。