雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
俺には、どうすることも出来ないのか――。
たまらなくなって、情けなくも、あの優しい笑顔を見たいと衝動的に雪野のバイト先に行ってしまった。
そうしたら、思いもよらないものを目にした。
雪野と理人が抱き合っていた。
理人がなぜ雪野の店に――?
突然、理人が家を出て行った。その頃の記憶を辿れば、ちょうど俺の見合い話が再び浮上した頃と合致する。
雪野に出会ってから三年。
まるで憎しみという憑物が落ちたみたいに、理人と理人の母親に接することはなくなっていた。だからと言って、これまで俺がしてきたことがなかったことになるわけなどなかったのだ。
理人の母親は、元々ホステスをしていて、父の愛人だった。俺の母親が生きている間に父の子を産み、母が病死してほどなく榊の家に後妻として入って来た。
父もまた、俺の母親とは政略結婚だった。母は、もともとは旧華族の血を引く家の娘だったと聞いている。
母は、夫である父に裏切られていることを知っていたのだと、後になって祖母に聞いた。
『もっと、創介と一緒にいたかった。一緒にいてあげられなくてごめんね……っ』
母の死の間際、泣きじゃくることしか出来なかった俺にそう詫びながら息を引き取った。
理人の母親のように美人というわけではなかったが、笑った顔が本当に優しくて。厳しい父親に叱責されるたび、その笑顔に癒された。
自分は病で死が迫る中、夫には他に愛している女がいて。どんな思いで俺の母親は死んで行ったのかと考えると、継母を許せなくて散々酷いことをして来た。
父にも罪があるはずなのに、俺は弱いものを攻撃した。
そして、なんの罪もない理人までも――。
いくら後悔したところで、過去に俺がして来たことは消えない。
でも、醜くて弱い最低な俺を、雪野にはどうしても知られたくなかった。
雪野を抱き締めていた理人の思惑がどこにあるのかわからない。その店で理人が働いていたのは偶然なのか、それとも俺と雪野のことを調べたうえでのことか。
一体理人は、何を考えている――?
ただ、俺にとって一番触れられたくないところを突いてきた。それだけは間違いない。
強引に理人から雪野を引き剥がし、連れ去った。