雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「これは、お待たせして大変申し訳ありませんでした」
家族には絶対に見せない朗らかな笑みを浮かべて、父が宮川氏に頭を下げた。
「いやいや、こちらも今来たばかりですよ」
恰幅のいい身体のせいか、その声も張りがあって大きい。それは、政治家という職業のせいもあるかもしれない。
宮川氏は、いつ見ても異様なオーラを放っていた。そのオーラは、父の放つものとはまた性質の異なるものだ。
「失礼します」
無表情の継母に続き部屋に入る。席に着く際に会釈して、凛子さんの正面に座る。
「よろしく、お願い致します」
相変わらずゆったりとして小さな声だった。
凛子さんとは、毎年、父親と一緒に正月に会うだけの間柄だ。
先日もパーティーで会ったが、挨拶程度で二人きりで個人的に話したこともない。それは、俺がそうなるのをそれとなく避けていたのもある。
「凛子、創介君があまりに男らしいから、照れているのか?」
「おやめください、お父様」
豪快に笑うその横で、凛子さんが恥じらうように俯いた。
「お互い顔は知っているとは言え、このような場を設けるのは初めてですからね。緊張するのも無理はない」
父が凛子さんを労わるように笑顔を向けていた。
「それはそうと、噂に聞くところによると、創介君は随分実績を上げているみたいじゃないですか。血筋だけには頼らない。まさに、榊さんの教育の賜物ですな」
「まだまだですよ。ただ創業家の生まれだからという理由だけでトップの座につけるほど甘くはないですからね。他の社員と変わらず、汗をかかせていますよ」
三年待たせてようやくこの席にこぎつけたことに、ホッとしているのか。
父は終始、機嫌が良い。