雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
庭園を眺める廊下を歩く。
俺の後ろを、黙ったまま凛子さんが付いて来る。離れを出たところで、凛子さんに向き合った。
「突然、連れ出してしまい申し訳ありませんでした」
「いえ」
その真っ白な頬を赤らめて俯いている。
きらびやかな振袖が彼女の育ちの良さを際立てていた。完全に着こなしているのを見ると、着物を着慣れているのだろう。
陶器のような頬に、傷一つない手。誰かさんとは大違いだ。
「少し、話をしませんか?」
「はい」
俺が最初に話をしたかったのは、凛子さん本人だ。
ゆっくりと庭園に向かって歩き出すと、凛子さんも遅れて歩き出したようだ。決して並ぶでもなくほんの少し後ろを歩く。
白い丸石が敷き詰められた先に池が現れた。そこで立ち止まる。
「寒くはありませんか? 寒ければそう言ってください。場所を変えますから」
スーツのジャケットだけでは若干風が冷たく感じる。少し心配になって彼女に問い掛けた。
「でしたら……ここではなく、別のところに行きたいです」
「いいですよ。どこか行きたいところはありますか?」
「……私、高いところが好きで。このホテルでも構いません。最上階に行きたいです」
凛子さんの言葉に驚き、思わず彼女の顔を凝視してしまった。それから確かめるように、すぐ向こうにあるホテルの建物を見上げる。
「ここの最上階のお部屋、取ってあるんです」
「……え?」
もう一度驚かされた。
「お見合いの後、創介さんとの時間が持てるよう、私の父が――」
「なぜ、そんなことを?」
驚きのあまり勢いのまま問い掛けてしまったが、聞くまでもないことだ。
「――いえ、すみません。では、せっかくですから、そこに行きますか?」
「いいのですか……?」
部屋まで取っておいて、驚いたような顔をする。凛子さんの父親の顔が浮かんで、舌打ちしそうになった。
「高いところが好きなんでしょう?」
目の前にいる凛子さんが悪いわけではないのに、つい、意地の悪い言い方になる。
ホテルのガラス張りのエレベーターに昇りながら、つい昨日のことを思い出す。同じようにホテルの上の階へとエレベーターで昇った。
男とホテルの部屋に行く――。
その事実を凛子さんはどう思っているのだろうか。
彼女が本当はどんなタイプの女なのか知らないから分からない。実はこういうことに慣れているのか。それとも、男をまだ知らないのか。
鍵についていたプレートの番号の部屋に入る。フロアの半分は占めているであろうだだっ広い部屋だった。
奥には寝室がありベッドがある。それを目にした凛子さんは思いっきり顔を逸らした。