ラストチャンス
1月下旬。受験生の私たちを励ますかのように、最近の空は毎日青く澄んでいる。

共通テストは無事に終わった。
自己採点の結果は目標点より少し低かったけれど、もともと高めだった目標だから、まあ、悲観するほど悪くはなかったんじゃないかと思う。

私の体調も共テ前に無事回復した。
あとは、担任と最後の志望校確認の面談をして、それが終われば2次試験に向けて頑張るのみだ。

今は、その面談の待ち時間。職員室の前で、ひとつ前の生徒が面談を終えるのを待つ。

あ、出てきたみたい。

「佐伯さん入っていいってー」

「分かったー」

軽く礼をして職員室に入り、担任の先生の机に向かう。担任は50半ばの日本史担当の男性教師で、やや熱血教師的なところがあるこの教師が、正直少し苦手だ。

「おー佐伯ー、ここ座れー」

「はい、お願いします」

「さて、と」

脂の浮いたいかつい顔が目の前に来る。

「共通テストお疲れ様、だな。で、自己採点の点数見たけど…うーん、佐伯なら、もうちょっととれただろー?」

「え…」

「目標点より低いし。まー判定的には今の志望校で大丈夫だと思うけど。どう、自分的に?」

「…目標よりはとれなかったんですけど、自分的には結構頑張れたのかなって思っていて…。今の志望校のままいきたいです」

「分かった。佐伯なら大丈夫だろ。油断しないで頑張れよー」

目を合わせられず、俯く。

「…はい。ありがとうございます」

「他なんか質問とかあるか?」

「いえ、特にないです」

「よしじゃー終わり。次の奴呼んでー」

「はい。ありがとうございました」

職員室を出て次の人を呼ぶ。

先生にとっては流れ作業だもんなー…。

でも、なんかモヤモヤしてしまう。

「もうちょっととれただろー」
「佐伯なら」 「油断しないで」

当たり前の言葉なのかもしれない。
この言葉に励まされる人もいるのかもしれない。
でも、私はそうじゃなかった。

昔からプレッシャーが苦手だった。
期待に応えられないことが怖い。
相手の理想に私が追いつけないことが怖い。

先生、私、油断なんてしてないですー…。
毎日不安でいっぱいなんですー…。
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