ラストチャンス
2
共通テストまで、1週間をきった。
そんな大事な時期なのに、私は少し体調を崩しかけてしまった。
朝起きたら、喉が痛くて。熱はなかったから学校はとりあえず行ったけど、やっぱり痛いし声が掠れてしまう。咳も少し出るし。
「雪菜、大丈夫?」
授業終わり、一緒にお弁当を食べている友達の真穂が心配してくれる。
「もう共テまで1週間もないのに…。
でも、雪菜なら絶対大丈夫だから!悪化しないようにゆっくり休んだ方がいいよー」
「ありがとう…。でも、大丈夫」
心配してくれるのは有難いけど、正直、辛かった。1週間もないと言われてやっぱり焦るし、絶対大丈夫っていうのも重荷だし、休みたくても今休んだら後悔するかもしれないし…。
真穂が私のことを本当に心配してくれてるのは分かる。分かるし、真穂の優しさは有難いけど…。少し苛立ってしまう自分が嫌になる。
でも、喉が痛いだけなんだから…。もう時間ないし、勉強しなくちゃ…。そんな少し急いた気持ちで、放課後いつものように図書室に向かおうとしたその時。
「佐伯さん」
廊下で前から来た人に声を掛けられた。
顔を上げると、それは、
「池谷くん…」
…彼だった。
「あの、なんか今日体調悪そうだったから、大丈夫かなって」
「大丈夫だよ。ありがと…ごほっ、」
少し咳き込んでしまって、言い直す。
「ありがとう」
なんでこのタイミングで咳が出るんだろ…。
これじゃ、大丈夫じゃないみたいじゃん…。
案の定、優しい彼の瞳は心配そうな色を浮かべていた。
池谷くんだって今勉強大変な時期なのに。
やだ、余計な心配させたくない…。
「これ、良かったら」
そんなことを思って俯いた私に、彼はコンビニの袋から何かを取り出して差し出してくれた。
「え、?」
「お茶、温かいやつ。と、のど飴。
余計なお世話かなーって思ったんだけど、ちょうど昼飯買いにコンビニ行ってたし…」
少しきまりが悪そうな顔で彼が言う。
そんな顔を見ていたら、彼のこと、愛しくて仕方がなくなってしまった。
「全然、余計なお世話じゃない…、ほんとに嬉しい、ありがとね」
そう言って受け取った。
あ、お茶あったかい…。その温かさに、冷たくなっていた手も心もほぐれていく。
「良かった…。無理しない程度に、頑張って。いや、頑張れってか、頑張ろ」
その言葉、今の私にとってどれほど嬉しくてどれほど安心させられたか…。
油断すると、涙が出てきそうなくらい、心が揺れた。
「うんっ…!」
「じゃ、お大事に。」
「ありがとう。」
何か、もっと感謝を伝えられる言葉を言いたかったけれど、見つからなくて、結局「ありがとう」しか出てこなかった。
でも、しっかりと彼の目を見て言うことが出来た。私の感謝は、きっと伝わってるよね?
のど飴の包みを剥いでひとつ口に放り込む。
ピリッとした生姜の味のなかに、微かに甘い蜂蜜を感じる。
「無理しない程度に頑張ろ」
その言葉を反芻して胸の中で抱きしめながら、再び図書室へと歩き始めた。
そんな大事な時期なのに、私は少し体調を崩しかけてしまった。
朝起きたら、喉が痛くて。熱はなかったから学校はとりあえず行ったけど、やっぱり痛いし声が掠れてしまう。咳も少し出るし。
「雪菜、大丈夫?」
授業終わり、一緒にお弁当を食べている友達の真穂が心配してくれる。
「もう共テまで1週間もないのに…。
でも、雪菜なら絶対大丈夫だから!悪化しないようにゆっくり休んだ方がいいよー」
「ありがとう…。でも、大丈夫」
心配してくれるのは有難いけど、正直、辛かった。1週間もないと言われてやっぱり焦るし、絶対大丈夫っていうのも重荷だし、休みたくても今休んだら後悔するかもしれないし…。
真穂が私のことを本当に心配してくれてるのは分かる。分かるし、真穂の優しさは有難いけど…。少し苛立ってしまう自分が嫌になる。
でも、喉が痛いだけなんだから…。もう時間ないし、勉強しなくちゃ…。そんな少し急いた気持ちで、放課後いつものように図書室に向かおうとしたその時。
「佐伯さん」
廊下で前から来た人に声を掛けられた。
顔を上げると、それは、
「池谷くん…」
…彼だった。
「あの、なんか今日体調悪そうだったから、大丈夫かなって」
「大丈夫だよ。ありがと…ごほっ、」
少し咳き込んでしまって、言い直す。
「ありがとう」
なんでこのタイミングで咳が出るんだろ…。
これじゃ、大丈夫じゃないみたいじゃん…。
案の定、優しい彼の瞳は心配そうな色を浮かべていた。
池谷くんだって今勉強大変な時期なのに。
やだ、余計な心配させたくない…。
「これ、良かったら」
そんなことを思って俯いた私に、彼はコンビニの袋から何かを取り出して差し出してくれた。
「え、?」
「お茶、温かいやつ。と、のど飴。
余計なお世話かなーって思ったんだけど、ちょうど昼飯買いにコンビニ行ってたし…」
少しきまりが悪そうな顔で彼が言う。
そんな顔を見ていたら、彼のこと、愛しくて仕方がなくなってしまった。
「全然、余計なお世話じゃない…、ほんとに嬉しい、ありがとね」
そう言って受け取った。
あ、お茶あったかい…。その温かさに、冷たくなっていた手も心もほぐれていく。
「良かった…。無理しない程度に、頑張って。いや、頑張れってか、頑張ろ」
その言葉、今の私にとってどれほど嬉しくてどれほど安心させられたか…。
油断すると、涙が出てきそうなくらい、心が揺れた。
「うんっ…!」
「じゃ、お大事に。」
「ありがとう。」
何か、もっと感謝を伝えられる言葉を言いたかったけれど、見つからなくて、結局「ありがとう」しか出てこなかった。
でも、しっかりと彼の目を見て言うことが出来た。私の感謝は、きっと伝わってるよね?
のど飴の包みを剥いでひとつ口に放り込む。
ピリッとした生姜の味のなかに、微かに甘い蜂蜜を感じる。
「無理しない程度に頑張ろ」
その言葉を反芻して胸の中で抱きしめながら、再び図書室へと歩き始めた。