大切なもの
春香の場合
春香は会社の勤めを終え、帰宅した。
もう何年も前から住んでいるアパートは、学生ばかりで春香の様な社会人は少ない。
学生が住めるアパートなので家賃は格安であるが、セキュリティは万全ではない。
「学生が煩いし、そろそろ引っ越そうかしら…」
春香が自室の鍵を差し込みながら呟いた。
「今晩は。」
部屋に入ろうとすると声を掛けられた。
春香の隣に住む学生だ。
背が高く痩せ形。
特徴的な所はない、どこにでも居そうな大学生風な男性。
春香は何度か、部屋の前で声を掛けられた事があったが返事をするだけだった。
「今晩は。」
軽くお辞儀をして部屋に入った春香は溜め息をついた。