振られた僕と雨宿り先で出会った不思議な少女
 前を歩く伊鈴さんは楽しそうにしていて、そんな姿も可愛らしい。


「ここじゃ」


 伊鈴さんが玄関の扉の前で止まり、振り返って笑顔で言う。

 まさか出て行けということであろうか。
 それなら服を着替えなければならない。
 制服がないと明日から学校に行くのに困るし。

 それを伊鈴さんに伝えようとした時。
 伊鈴さんが扉を開ける。

 そこには先程来た道とは全く違う景色が広がっていた。

 まず目に入ってくるのは一本の大きな桜の木だ。
 満開に咲いていて、思わず見惚れるほど見事だ。
 先程の雨が嘘だったのではないかと思うほど空は晴れていて、光がより桜を綺麗に見せてくれる。
 近くにある池に桜が反射していて、それがまた綺麗だった。

 でも今は秋のはずなのに、どうして桜が咲いているのだろうか。


「どうだ。綺麗であろう?」


 笑顔で伊鈴さんが尋ねてくる。
 それに素直に綺麗だと答える。
 伊鈴さんは満足げに笑みを深める。


「ここは我の気に入っている場所なんだ。其方も気に入ってくれたようで何よりだ」

「はい、本当に綺麗です。あの、ここって……」


 どこなんですか、と尋ねようとした時、低い男の声が聞こえる。
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