アンコール マリアージュ
 ガーデンで待っているから、着替えておいで、と真菜に言い、真は扉を開けてゆっくりと外に出た。

 昼間は暑いくらいの陽気だったが、今はひんやりとした風が心地良い。

 花の香りも楽しみながら、ガーデンに足を踏み入れた時だった。

 「あの」

 ふいに声をかけられて振り返ると、若い男性がこちらに近付いて来た。

 真の前まで来ると、頭を下げる。

 「写真事業部の小野と言います。急に呼び止めてすみません。少しお話してもいいでしょうか」
 「何だ」

 真は、正面に向き直った。

 「あの、単刀直入に言います。真菜とはどういうつもりですか?」
 「言ってる意味がよく分からんが?」
 「どうして真菜と一緒に住んでるんですか?あいつは、結婚前に男と同棲するようなやつじゃないんです。今どき珍しいくらい純粋で、自分を大事に守ってるんです。なのにどうしてあなたは、そんな真菜と一緒にいるんですか?どういうつもりで?真菜のこと、本気で考えてるんですか?」

 上司だろうが関係ない、と言わんばかりの強気な態度に、真は、ふっと笑みをもらす。

 「何がおかしいんですか?」
 「いや、若くていいなと思っただけだ」

 そして真っ直ぐ視線を合わせた。

 「君の質問に答えよう。真菜に、業務上の危険が迫っていた。会社としては、社員を守る義務がある。だから真菜の安全を確保した。上司としての責任を果たした。それだけだ。それに…」

 一瞬言葉を止めてから、また顔を上げる。

 「今日、問題は全て解決した。真菜の身に危険が迫る事はもうない。俺が真菜を守る必要もなくなった。真菜はもう自由だ」
 「それは、もう一緒に住む必要はなくなったって事ですか?」
 「そうだ」
 「…分かりました。じゃあ」

 そう言って頭を下げてから、立ち去って行く。

 真は、ふうと大きく息を吐き出した。

 そしてそんな二人の様子を、柱の後ろで見ていた真菜もまた、大きなため息をついていた。
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