アンコール マリアージュ
 「行ってらっしゃい」

 翌朝、いつものように真菜が真を玄関で見送る。

 「行ってきます」

 そう言って真が出て行った。

 いつもの朝…だが、最後の朝だ。

 真菜は腕まくりすると食器を洗い、掃除や洗濯など、次々と家事をこなす。

 今日、真菜の仕事は休みだった。

 ひと通りの家事を済ませると、一旦外に出てスーパーに買い出しに行く。

 (えっと、牛乳と卵、パンとヨーグルトに、あと真さんの好きなグレープフルーツと…)

 最後に、思い付いたように鶏もも肉を買った。

 マンションに戻るとご飯を炊き、唐揚げと味噌汁を作って、ラップをかけてからダイニングテーブルに並べる。

 そして自分の部屋に入ると、荷物をまとめた。

 「よしっ!と」

 大きなバッグを手に部屋を出ると、
『ありがとうございました 真菜』
と書いたメモと一緒に、マンションの鍵をダイニングテーブルに置く。

 玄関に立つと、くるっと向きを変えてから、誰もいない部屋に向かって深く頭を下げた。

 「お世話になりました」

 涙がこみ上げて来るのを必死に堪え、真菜は玄関をあとにした。
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