アンコール マリアージュ
 夜に寮への道を歩くのは、あの日以来だ。

 真菜は、バッグを持つ手に力を込めて、足早にあの時の現場を通り過ぎる。

 (大丈夫、大丈夫…)

 何度も自分に言い聞かせながら、速足で歩いて行く。

 辺りはまばらに人の姿もあり、真菜は幾分ホッとしながら無事に寮にたどり着いた。

 ポストから溜まった郵便物を取り出し、久しぶりに部屋に入ると、ベッドにドサッと座り込んだ。

 (はあー、ようやく帰って来たってよりは、変な感じ。自分の部屋じゃないみたい)

 ノロノロと立ち上がり、冷蔵庫を開ける。

 ペットボトルが何本かと、調味料…

 (これじゃ何も作れないな。かといって外に買い出しに行くのも嫌だし)

 真菜は、シンクの下の棚を開け、夕飯にはパスタを、明日の朝食用にはパンケーキを作る事にした。

 (明日、仕事帰りに買い物しよう)

 そう思いながらパスタを食べ、お風呂に入る。

 心細くなるのは、あの日の恐怖が蘇っているからなのか、それとも単に、久しぶりのひとり暮らしだからなのか…

 とにかく真菜は、早めにベッドに入った。
 だが、寝付けなくて何度も寝返りを打つ。

 今までは電気を全部消していたが、ベッドサイドのランプは点けたままにしている。

 ぼんやりとした灯りの中で時計を見ると、23時になろうとしていた。

 (はあ、全然眠れない…)
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