アンコール マリアージュ
 その時、枕元のスマートフォンがいきなり鳴り始めた。

 「びっくりしたー。電話?え、真さん!」

 真菜は飛び起きて耳に当てる。

 「もしもし」
 「真菜?俺だ。遅くに悪い。起こしたか?」
 「いいえ、まだ寝付けなくて」
 「そうか」
 「真さんは?今帰って来たんですか?」
 「さっきな。そうだ、唐揚げありがとう、うまかった」
 「いえ。こんな時間に食べて胸焼けしませんでしたか?」
 「全然。もっと食べたいくらいだ」
 「ええ?!あんなにたくさん作っておいたのに?」

 真菜は驚いて笑い出す。

 「ほんとに真さん、唐揚げ好きですね」
 「そうだな、3日に1回は食べたい。あ、それより真菜。忘れ物したみたいだぞ」
 「え、忘れ物?」
 「そう。洗面台に、クシュクシュッとしたのがあって。ほら、真菜が料理する時に髪をまとめてた…」
 「ああ、シュシュですね」
 「シュシュ?クシュクシュじゃないのか?」
 「ふふ、シュシュです。特になくても支障はないので、そのまま持っておいてもらえますか?邪魔だったら捨てて下さい」
 「そんな、捨てるなんて。じゃあ、次に会う時まで預かってるよ」
 「すみません、お願いします」
 「ああ、今度返すよ」

 そして沈黙が広がった。

 「…真菜」
 「はい」
 「眠れるか?」

 ふいに聞こえてきた真の優しい声に、真菜は胸がギュッと締め付けられ、一気に涙がこみ上げてくる。

 「真菜?」
 「だ、だいじょぶ、でず」
 「その割にはもの凄い鼻声だが?」
 「な、泣いでなんが、ないでず」
 「そうか、泣いてるのか」
 「泣いでまぜん…グズ」

 真は、ふっと笑みをもらす。

 「無理するな。お前が寝付くまでこの電話は繋いでおく。安心して休め」
 「え、電話しながら寝るの?」
 「話してると眠れないだろう。お前は黙って目を瞑れ」
 「じゃあ真さんが、子守唄歌ってくれるの?」
 「それもまた別の意味で眠れん。いいから黙って目を閉じろ」
 「はい」

 真菜は目を閉じて耳を澄ませる。
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