アンコール マリアージュ
 「新郎新婦、スタンバイOK。始めます」

 久保がインカムで全スタッフに合図を出すと、程なくしてオルガンの音色がチャペルの中から聞こえてきた。

 梓と希が扉の両側に立ち、目配せしてからゆっくりと扉を開いた。

 その瞬間、別世界へといざなわれた気がして、真菜は息を呑む。

 「行くぞ」

 新郎に声をかけられ、頷いた真菜はゆっくり歩調を合わせて歩み出た。

 入り口で二人揃って一礼する。

 そして一歩ずつ二人でバージンロードを歩き始めた。

 『まず、右足を出して揃える。次に左足を出して揃える、というふうに交互に足を出してくださいね』

 いつもお客様に説明しているセリフが頭の中に蘇る。

 『新婦様は、ドレスの前の裾を踏まないように気を付けてくださいね』

 そこまで思い出した真菜は、ふとある事に気付いてそっと新郎の様子をうかがう。

 (この方、挙式の流れを説明されてるのかしら?)

 このあと、誓いの言葉や指輪の交換、そして誓いのキスもある。

 (どうしよう、ご存知ですかって聞いてみる?いや、そんなコソコソしてちゃいけない。なんたって陸・璃子カップルみたいに、憧れの結婚式ってイメージでやらなきゃ。って、私、凄い仏頂面してた?!」

 急に焦り始めた真菜は、取り敢えずにっこり笑ってみた。

 (ええい、もう成るようにしか成らない!)

 開き直って余裕の笑みを浮かべながら、ちらりと新郎を見上げたりして、幸せな新婦を演じる事に徹する。

 やがて二人は牧師の前に並んだ。

 オルガンの音が消え、牧師が話し始めるが、真菜は必死でこの後の流れを思い出す。

 (えっと、讃美歌を歌って、誓いの言葉を…。あ!まさか、璃子ちゃん達の名前のまま?どうなってるのかな。それに誓いのキス!璃子ちゃん達は本物のカップルだから、いつも普通にキスしてて、それがお客様のキュンキュンポイントだったけど、まさか今回はねえ。ちゃんとほっべにしてくれるよね?)
< 11 / 234 >

この作品をシェア

pagetop