アンコール マリアージュ
 6月に入ったある日。
 真は、本社の社長室を訪れていた。

 「お呼びでしょうか?」

 頭を下げると、叔父である社長が頷いた。

 「ああ。ちょっとお願いがあるんだ」
 「はい。どの様な事でしょうか?」

 真は、表情を変えずに聞く。

 大学院を卒業後、真は、父が社長を、祖父が会長を務めるプルミエール・エトワールに入社する予定だった。

 だが、急に、叔父が社長を務める関連会社のアニヴェルセル・エトワールに行けと言われ、真は、なぜ?という疑問で一杯だった。

 とにかくがむしゃらに4年間海外事業部で働いたが、今でも、なぜこの会社に?と、父への不信感が消えず、叔父にも心を開けないでいた。

 「どうだ?日本に帰って来てそろそろ3ヶ月か。会社にも慣れたか?」
 「慣れた、というのがどういった状態かは分かりませんが、日々業務に邁進しております」
 「ふっ、相変わらずだな。真、たまには実家にも顔を出しなさい。兄さん達も、ずっとお前に会いたがってるんだぞ?」
 「お話はそれだけでしょうか?でしたらもう」
 「あー、分かった分かった。この話はもうやめるから」

 社長は慌てて手を挙げる。
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