アンコール マリアージュ
 心ここにあらずの状態で讃美歌を歌ってから、牧師が誓いの言葉を読み上げるのを聞く。

 「新郎、あなたはここにいる新婦を妻とし、病める時も健やかなる時も、貧しき時も富める時も、妻を愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」

 (おお、名前省略してくれてる!)

 真菜が妙に感心していると、新郎が力のこもった声で「はい、誓います」と返事をした。

 牧師は頷いて、今度は真菜に向き合う。

 「新婦、あなたはここにいる新郎を夫とし、病める時も健やかなる時も、貧しき時も富める時も、夫を愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」

 真菜も、顔を上げてはっきり答えた。

 「はい、誓います」

 そして、ちょっとシュンとする。

 (あーあ、誓っちゃったよ)

 だが、式はまだまだ続く。

 「では、愛の証となる指輪の交換を」

 牧師が真っ白なリングピローを差し出した。

 真菜は、介添えの梓にブーケと手袋を預けて、新郎と向かい合う。

 (えーっと確か、この時右手を左手の下に添えてくださいねっていつも言ってたよな、私)

 自分の左手を新郎に差し出しながら、その手を支えるように右手を添える。

 新郎はリングピローから小さい方の指輪を外すと、優しく真菜の左手を取り、ゆっくりと薬指にはめていく。

 (入る?入るよね?もうちょっと、ぐいっと、そう!)

 途中少し詰まりながらも、なんとか無事に真菜の指にプラチナのリングがはめられた。

 そして今度は真菜が指輪を取り、新郎の指にはめていく。

 (うわー、男の人なのに長くて綺麗な指ねえ。サイズ、大丈夫かな?合わせる時間あった?お!入ったー)

 嬉しくなって、真菜は思わず新郎に、にっこり笑いかけてしまった。

 一瞬戸惑いを見せたものの、新郎も微笑み返してくれる。
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