アンコール マリアージュ
 ひと通り撮り終えると、拓真が真菜に目配せする。

 真菜は頷いて、こっそりインカムを流した。

 「控え室真菜です。あと5分程で移動始めます」
 「チャペル久保、了解です」

 真菜は、新婦に歩き方のコツを説明し、もう一度三人の服装をチェックする。

 希も、新郎新婦の髪型を少し手直しした。

 「では、写真スタジオにご案内致しますね。ご両親もそちらでお待ちですので」

 そう言って、控え室のドアを開ける。

 こっそり背を向けてインカムを手にした時、イヤホンから拓真の声が聞こえてきた。

 「控え室、拓真です。新郎新婦、チャペルへ移動開始します」

 真菜は後ろを振り返り、少し遠くにいる拓真に、ありがとうと口だけ動かした。

 男の子を真ん中にして、手を繋いだ三人は、嬉しそうにお互いの衣裳姿を褒め合いながら歩いて行く。

 「由香里、ほんとに綺麗だよ。もう別人みたい」
 「えー、幸一だってかっこいいよ」
 「惚れ直した?」
 「やだー!でも、うん、まあね」
 「ははっ!翼もかっこいいしな」
 「うん、翼も王子様だねー。かっこよく写真撮ってもらおうねー」
 「うん!」

 和やかな雰囲気で、写真スタジオに入ると信じて疑う様子もない。

 「新郎新婦、チャペル前到着。入場します」
 「久保、了解。こちらも準備OKです」

 再び気を利かせてインカムを流してくれた拓真に感謝しながら、真菜は希と一緒に扉に手をかけた。

 「さあ、こちらが写真スタジオです。ドアを開けますね」

 何気ない事の様に真菜が言い、希と息を合わせて扉を開いた。
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