アンコール マリアージュ
こんな偶然ありますか?!
 「…はあ」

 会社の寮に帰ってくると、真菜はボスッとベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。

 「なんだったんだろう、今日は…」

 朝、この部屋を出る時は、頑張ってご成約頂くぞ!と意気込んでいたっけ。

 それがなぜか、ウェディングドレスを着てバージンロードを歩き、皆が見ている前で知らない人とキスをするはめになったのだ。

 (しかもあれが私の…ファーストキス)

 じわっと目に涙が浮かんでくる。

 昔から人一倍結婚式への憧れが強く、それが高じてこの仕事を選んだ。

 ウェディングドレスは、一生に一度。

 自分の時はどんなドレスにしようかと、結婚情報誌やドレスのカタログを眺めては、気に入ったものを切り抜いて集めていた。

 新郎には事前にドレス姿を見せず、チャペルに父親と入場する時に初めてお披露目しようかな、とまで考えていたのだ。

 そんな夢も、今日1日でガラガラと崩れたような気がする。

 (仕事なんだから、仕方ないじゃない。それに、自分の結婚式はまた別。その時は、こだわりのドレスを着たらいいんだから)

 そう言って己を慰める。

 だが、どうしても立ち直れない事実が1つ…。

 どこの誰とも分からない、会ったばかりの人にファーストキスを奪われてしまった事だ。

 思い出しただけで、顔が赤くなる。

 と同時に、なんだか腹が立ってきた。
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