アンコール マリアージュ
 「真さんがそう言って下さるのはとても嬉しいです。でも私は、現場でお客様と接していて、いつもどこか自信がなく、おどおどしてしまう事があります」

 え?と真は意外そうに驚く。

 「私、もうすぐ24才なんですけど、プランナーとしてはまだまだ信頼してもらえる年齢ではありません。想像してみて下さい。30才のカップルがいらしたとします。自分達の大事な結婚式を任せるプランナーに、これまで関わった挙式は何百組、自身の結婚式も経験済みの40代のプランナーを選ぶか、入社4年目で経験も浅く、自分の結婚式はおろか、デートもした事がない24才のプランナーを選ぶか…」

 真はじっと黙って真菜の言葉に耳を傾ける。

 「答えは明白ですよね。誰も、年下の頼りないプランナーを選んだりはしない。だから店長も、お客様の担当者を決める時は、まず梓先輩を第一にされています。30代後半や40代のカップルは、まず私には担当させてもらえません。それは当然の事だと思います」
 「だが、それと雑誌の取材は別だろう?先方は真菜を指名しているんだし。それにお客様だって、第一印象ではベテランのプランナーを選ぶかもしれないが、真菜と接するうちに、この人に任せて良かったと思ってもらえるはずだと俺は思う」
 「でもやっぱり自信がないです。雑誌なんて、どんなふうに書かれるか分からないし、もしかしたら取材中にガッカリされて、良い内容にはならないかもしれない。そしたら社のイメージも悪くなるし…」
 「それなら、原稿チェックの際にNGを出せばいい。とにかく一度、まずは受けてみるのはどうだ?」

 うーん…と頑なに渋り続ける真菜に、真は、よし!とばかりに身を乗り出す。

 「真菜、そしたら何か報酬を社長にお願いしよう。取材を受ける代わりにってな。何がいい?昇進とか、あ、ボーナスは?」
 「ええー?そんなのいりませんよ」
 「どうして?言えばいい。今なら社長、絶対喜んで頷くって。な?」
 「本当に結構です。そんな、お金なんて…」
 「じゃあ、他に何かして欲しい事とかないか?真菜の望みなら、何だって叶えてもらえるぞ?」
 「私の、望み…?」
 「そうだ。何かないか?」

 真はじっと真菜の言葉を待っている。

 「私、私ね、お客様のとっておきスポット巡りをしてみたいんです」

 は?と真は動きを止める。

 「な、何だって?何巡り?」
 「あのね、私、いつも新郎新婦のお二人から色々なお話を聞くんです。告白した場所、初デートで行った所、初めて手を繋いだ時、プロポーズのシチュエーション、あと、初めてキ、キスした時の事とか」

 顔を赤らめてうつむきながら話す真菜を、怪訝そうに真は見つめる。

 「そ、それが、何か?」
 「だから、その…私もそういう場所に行って、そういう雰囲気を味わってみたいなって。どんな気持ちで新郎新婦のお二人が結婚を決意したのか、どういう時に『この人となら』って、生涯を共にする相手を確信したのか」
 「は、はあ…」

 真は気の抜けた返事をする。

 「もう!いいです。どうせ真さんには分かってもらえないもん」
 「ご、ごめん!いや、分かる、分かるよ。そうやってお二人の気持ちを知れば、更に結婚式へのイメージもしやすくなるもんな」

 コクリと真菜は黙って頷く。

 「よし!分かった。俺も一緒に回って再現しよう。その、何だっけ?何巡り?」
 「お客様のとっておきスポット巡り」
 「そう!それな。えーっと、善は急げだ。真菜、次の休みいつだ?」
 「明後日の木曜日です」
 「分かった。じゃあその日にしよう」

 そう言って、真はどこかに電話をかけ始めた。

 「社長、真です。明後日の私のスケジュール、全てリスケお願いします。はい、はい、分かりました。必ず、お約束します」

 真菜は、ひえーと驚き、電話を切った真に詰め寄る。

 「ちょっと真さん、大丈夫なんですか?社長にそんな…」
 「ああ、構わない。社長も二つ返事でOKしてくれた。真菜さんをしっかり接待しろってさ」

 ひー!と真菜は、両手で頬を挟んで仰け反った。
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