アンコール マリアージュ
 駅からランドマークタワーの前を通り、海を目指す。

 「まだデートじゃないので、まずは気軽に『臨港パーク』に行こうと思って。本当は、『山下公園』や『港の見える丘公園』も人気だったんですけど、職場に近いのでこっちにしてみました。でも良く考えたら、真さんのマンションの近所でしたね。すみません」
 「いや、俺も行った事ないんだ、臨港パーク。楽しみだな」
 「ほんとですか?!良かった」

 嬉しくて、思わずはしゃいだ声を上げてしまう。

 15分程歩いたところで、目の前に海が広がる芝生の広い公園に着いた。

 「うわー、綺麗!」
 「ほんとだ。気持ちいいなー」

 二人で思わず深呼吸する。

 「真さん、あれ、ベイブリッジですよ」
 「おおー!結構大きく見えるな」
 「見て!海がすぐそこ。水面に手が届きそう」

 柵に身を乗り出して手を伸ばす真菜に、真は声をかける。

 「おいおい、海に落っこちるなよ」
 「そんな子どもじゃありませーん」

 すると、すぐ近くで同じ様にはしゃいでいる子ども達の声がした。

 夏休みという事もあり、あちこちで小学生らしき子ども達が走り回っている。

 「ほら、お友達だぞ、真菜」

 くくっと笑う真に、真菜はツンと顎を上げた。

 「そこまでお子ちゃまじゃありせん!」

 だが、すぐ近くの男の子達が、興奮気味に盛り上がっているのを見て、つい気になり声をかける。

 「ねえ、何を盛り上がってるの?」
 「カニだよ!カニがいる!」
 「えっ、ほんと?!」

 男の子達が指差す先を、真菜も真剣に覗き込む。

 「ほら、あそこ!」
 「ほんとだ、小さいカニ!」

 真菜も思わず興奮してしまう。
 すると、真が近付いて来た。

 「どこ?」
 「ほら、あの波が打ち寄せてるとこ!」

 潮が引くと、コンクリートの水路に小さなカニが動いているのが見える。

 「お兄ちゃん、あのカニ取れる?」
 「ん?ああ」

 真は屈んで腕を伸ばすと、潮が引くタイミングを見て、1匹捕まえた。

 「ほら」

 真が手のひらに載せたカニを、男の子達は、わー!と目を輝かせて覗き込む。

 「サワガニだな」
 「お兄ちゃん、触ってもいい?」
 「いいぞ」

 男の子は、真の手からそっとカニを掴み上げた。

 次、俺な!と、他の子も次々と手を伸ばす。

 「いいか、優しく触って、あとで海に帰してあげるんだぞ?」

 真がそう言うと、うん、分かった!と男の子達は頷く。

 よし、と男の子の頭に手を置いてから、真は真菜の所に戻って来た。
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